麦わら物語 その伍


 

ボクが就職したのは、終わり頃ではあったが
バブルの時期
給料もボーナスも結構あった。

新人研修は1ヶ月間東京生活
研修先は八王寺
会社が用意したウィークリーマンションは池袋
マンションから駅まで、池袋から八王寺
八王寺から会社まで乗り換え等を含めて
通勤に2時間弱、東京でのラッシュはキツかった。

新人研修で一緒になった同期の女の子を
好きになった。
荻野目洋子似の普通の女の子
毎晩のように、ご飯に誘い仲良くなった。
研修期間の終わる頃、いつものように
新宿で飯食って、帰る途中に
ホテルに誘ったら、ハンドバッグでみぞおちを
殴られ、道端にうずくまる。
それから怒って帰ろうとする彼女を
追いかけ平謝り
なんとか、許しもらったのは淡い思い出。

研修の最終日に告白し
大阪と千葉との遠距離恋愛が始まる。

彼女は社交的でスゴく明るい娘
男女かかわらず友達も多かった。
職場の先輩や上司、取引先にも
可愛がられてた。

だが、ここでも
ボクの劣等感が顔を覗かせはじめる
彼女は人気者だからとヤキモチをやき
どうせ、ボクなんか・・・・・と自己否定が始まる。

そして、偉そうな態度を取り
月1も会おうとしなくなり
電話するのを止め
(遠距離な分、なかなか会えないから電話が大事なコミュニケーションなのに)
これでも、あなたはボクを好きでいられますか?
と、彼女の心を試そうとする。

この時の心理は、どうせ母親のようにボクを
捨てていくんだろ!?
やれるもんならやってみろや!(*`Д´)ノ!!!

彼女はとてもいい娘で
それでも、けっこうがんばってくれた。

が、案のじょうフラれる。
そして、こう思う。
やっぱりな・・・・・
彼女からしたらたまったもんじゃないよねえ
これが、心理学で言うキックミーってやつ。

恋ははじけ、バブルがはじる。

OA機器の会社には痛かった。

設備投資はもってのほか、倒産する得意先もあり
会社全体の数字も下がっていった。
ボクの課の数字も下がっていった。

あるとき
直属ではない別の課の上司に飯に誘われ
こう言われた。

『麦わら!?お前この頃、調子悪いのか?』

『いいえ!何でですか?』

『お前んとこの課長が、会議で麦わらの成績不振で課の数字が下がってるっていってたゾ!!』

ボクは耳を疑った。
たしかに、下がってはいたが
もう少しで手の届く範囲にいるのに・・・・
何で!?
オレ一人のせいなのか・・・・?
この日から営業にも身が入らなくなった。
仕事が嫌で仕方なくなった。

ここも、ボクの引き寄せ
ホントは人を信じてないんねんから
裏切られて当然の結果・・・・・

だんだん、通勤電車のなかで動悸と圧迫感
次々、閉塞感のある場所や回りに人が詰まっていて
何時間も身動きとれない場所にはいられなくなった。
(葬儀、映画館、会議、混んでる電車、車の中など)

家に帰っても圧迫感と動悸と呼吸がし辛くなり
夜眠れなくなった。
ボクの心は暗闇に飲み込まれていった。