書名 灼熱
著者 葉真中顕
感想 (・∀・)イイ!!
ブラーザ(灼熱)の名が付けられた国、ブラジル(和名:伯剌西爾)。本作品は戦前に日本からブラジルに移住した沖縄出身の少年 勇の物語。今の日系ブラジル人の先人たちだ。
彼らや当時のことは詳しく知らないが、移住先で大変な思いをしたのだろうと想像はできる。本作品はそんな彼らがブラジルでどのような気持ちで生きたのか十分に理解させてくれる。
最初にお伝えしておくと、本書はハードカバーで664ページある。情報量もとても多く、後書きを見ると参考文献の膨大な数に唖然とし、登場人物や、ブラジルの情景について描写される細やかさに納得する。
前半は、ブラジルへ移住した主人公の少年 勇を中心として、在伯日本人のブラジル内での微妙な立場、苦しい生活、日本人コミュニティ内での力関係が描かれている。
後半は戦後に発生した日本人コミュニティ内での対立を描いており、勇とトキオは敵味方に分かれてしまい、彼らが苦悩する姿が描かれる。(本作品の舞台は基本的に史実をベースにしている)
最初は、こんなほのぼのストーリーで最後まで行ったら、単なるブラジル移民たちのリポートだと思い、首をかしげていた。しかし後半で盛り上がってきて正直ほっとした。
後半の、勇とトキオが対立する理由は情報不足が主な原因だ。作品内では「信じたい情報だけを信じている」と相手側を非難するのだが、実は相手側も同じように言っている。
敗戦により、日本政府とのパイプがなくなった日本人コミュニティはブラジル国内で孤立し、現地語もわからず、ごくわずかな情報で判断することになる。
大本営発表を信じて勝利を疑わなかったほとんどの日本人は終戦を大日本帝国が勝ったと信じ込み、現地の言葉が理解できる少数の日本人は、負けたことを正確に認識した。この勝った派と負けた派が対立して悲劇を生み出す。
そこで、現代を考えてみると、電話、インターネット、SNSと、膨大な情報をほぼ即時に入手できる我々は、彼らと同じ過ちを繰り返さないと言い切れるだろうか。作品のなかで展開する悲しい出来事は決して他人事ではない。
本作品は、ブラジル移民たちが味わった苦労と、人々が対立する過程を丁寧に、説得力を持って語りかけてくる。
あえて注文を付けたい点は、黒幕であり主犯格キャラの最後の扱いがぞんざいすぎて失笑する。きっとどうでもよいのだろう。
日系ブラジル人に興味があり、移住当時のことをよく知らない方は本作品をぜひ手に取ってほしい。そして前半のほのぼのストーリーを何とか乗り越えて最後の悲しく、切ない想いと、ちょっと驚愕どんでん返しを味わのだ!