おいしい食べ物や感動した味など、食べ物の思い出はあまりないと思っていたのに。
おみそ汁やこんにゃくサラダなど、故人の思い出の味がいろいろな味を思い出させてくれます。
けして、豪華でもなく、何の変哲もないシンプルな食材ですが、何よりも思いやりがこめられています。
おいしい料理の思い出、それも、受け継いだ料理の味やレシピはお金には代えられない財産です。
私は得意な料理はないですが、故人からやさしくふるまっていただいた料理を大切に作っていきたい。
19年前に亡くなった伯母に教えてもらったきゅうりを使ったレシピ。
14年前に文章教室(入門編)の通信講座の課題で出した作品でご紹介します
『形見のレシピ』
毎年のことだが、きゅうりが豊作で実家の父や職場の方からお裾分けをいただく。
量が多いと食べきれず困ってしまう。サラダ、漬物、冷やし中華、そうめんやうどんを
ぶっかけにするとき千切りにして錦糸卵といっしょに食べるのもおいしい。
けれど、私が一番好きな食べ方がある。きゅうりとこんにゃくのサラダである。
きゅうりとこんにゃくのサラダは伯母に作り方を教えてもらった。
耐熱性の容器に下から、錦糸卵、ハム、きゅうり、こんにゃくの順番に積み上げ、
そこにフライパンで熱したサラダ油をこんにゃくの上にかける。
三杯酢を加え、混ぜ合わせてできあがり。伯母は自宅に人を招くことが多く、
このサラダもよくメニューに登場した。世話好きな伯母は料理ひとつでもお客様にあったものを、
心をこめて作っていた。太っていた私にはきゅうりとこんにゃくのサラダがぴったりだった。
伯母は最期のときを生まれ育った故郷で過ごすため、東京の自宅から実家がある小豆島まで帰ってきた。
途中で息絶えるかもしれないそんな状況でも伯母は「だめでもともと」と力を振りしぼった。
故郷にたどり着いてから伯母は痛みと体力の低下のため口数が日々少なくなっていった。
ガンの告知を受け、死を覚悟した伯母の表情はかつての明るく、にぎやかさはないものの、
やがて迎える死に対する強い覚悟がオーラのように伯母の体を包んでいた。
伯母が末期ガンで亡くなって五年がたった。
今年の夏もたくさんのきゅうりをいただいた。
実家で飼っている、ウコッケイやチャボの卵で作った錦糸卵も入れ、伯母を思い出しながら、
このサラダを作っている。三杯酢は伯母のように上手に作れないけど、
伯母が残してくれたこのサラダのレシピをこれからも大切にしていこうと思う。 (2006年)
今年も伯母を偲んできゅうりとこんにゃくのサラダをたくさん作ろうと思います。
