漫画家の浦沢直樹さんが企画、構成し、出演しているNHKの番組、「漫勉neo」を見ました。
水木しげるさんをとりあげて、水木しげるさんに対する疑問、感じていたことを水木さんのアシスタントを務められていたお二人の漫画家に質問したり、絵を一緒に見ながら内容の確認をしていくというマニアックな番組でした。
とてもおもしろかった。
私は特に水木しげるさんのファンではありませんが「ゲゲゲの鬼太郎」は小さいころによく見ていました。
とても怖い絵だなあと思ってみていたのをよく覚えています。
でてくるキャラクターはなんとかなくおもしろいしかわいい麺もあるのに、全体的な印象はなんとなく怖い。
なんでだろうと思っていましたが、この番組を見てわかりました。
たまたまそれは浦沢直樹さんが感じていた疑問ともすこし似たところがあったため、この番組を通じてそれを探ってくれていたからです。
それは、浦沢直樹さんが水木しげるさんの絵を模写している時に、
「なんでこの人はこんなに精巧な絵を描いているのに、ストーリーはこんなにふざけているのだろう」ということを感じていたのだそうです。
その答えが、アシスタントのお二人と話をする中で見えてきました。
そこで交わされていた会話が本当におもしろい。
2015年に水木さんは亡くなられているので、お嬢さんがでてきたり、水木さんのインタビュー映像がでてきたり、アシスタントをされていた池上遼一さんがアシスタント時代の苦労を語ったりと。
プロの世界の厳しさも感じる、しかしプロになっていくために何が必要か。お客様をひきつけるプロの技はどのように生まれるのかなど、さまざまなことが凝縮されている番組でした。
とても興味をそそられた会話は以下のようなものです。
「この線は定規を使ってませんね?」 → 絵を見て語る
「水木先生はGペンを使っておられますよね?」 → 線を見て語る
「写真を見本に背景を描く場合トレースされてませんよね?」
→通常は写真の上から真似して書くようですが、水木さんたちは写真を横においてそれを見ながら描いていたらしい。池上さん曰く、「植物がどのように生えているか、建物がどんな構造になっているかを理解して描かないと、それがリアリティをもった絵にならないんです」とのこと。
なるほど。単に形をまねてもだめなのだなあと私は感心してしまいました。
(写真 NHKneoより)
そして水木さんの仕事場に残されたたくさんの背景画。
書いたけれど使われなかった背景画が山のように眠っているそうで、それを見ながら三人がいろいろと話をされていたのがおもしろかった。
これを見て、背景の描き方についてあれこれ言うのですが、特に浦沢さんがこう言っていたのを聞いて、冒頭の私の疑問が解消されました。
「背景を精緻に描く事により、空気感や匂い、湿度までが感じられるようになっていると思うのです。
その精緻極まりない空間に、一反木綿が空中を浮遊する架空や突拍子もなさに逆にリアリティが生じているんじゃないでしょうか」
この話にはアシスタントをされていたお二人も、納得されていました。
このお話で、なるほど、私が水木さんの絵が怖いと感じるのは、その精巧な背景の描き方にあったのか とわかったのです。
草の描き方。
建物の描き方。
確かにどれもすごい細かいところまで描いています。
アシスタントはそれを徹底的に練習させられるのだそうです。
だから池上さんの描く絵も、それがあらわれています。
浦沢さんはその水木さんの発明にとても感激されていて、リスペクトされているのがよく伝わってきました。
なんだかうれしそうなのです。
水木さんのことを語っているその時間がたまらなく楽しそうでした。
プロというのはこういう自分なりの工夫、自分なりの発見や発明をしているものです。
特に水木さんのように漫画界の巨匠のひとりになっている方は、独自のノウハウをもって仕事をされてきています。
水木さんご自身のキャラクターのすごさもあったのだと思いますが、やはりご自身の戦争体験などから紡ぎだされてきた漫画の世界観に引き込まれた方は多かったのだと思います。
16歳の頃に描いていた絵なども紹介されていましたが天才と呼ばれていた画家の才能を感じさせる絵ばかりでした。
やはりもともと天才的な才能がある方が、さらに努力されていったから、鬼太郎の世界観を作れたのです。
プロの仕事をするとはどういうことかをあらためて教えてもらいました。
今日もプロとして仕事をしていけるいける!!