◇エッセイ

 

朝ドラ『虎に翼』にみる今日との共時性

 

                           土橋数子

 

編集会議でもついつい語ってしまったが、朝ドラ『虎に翼』を楽しみに観ている。第一回を鑑賞した直後、家人に向かって「これは名作!」と言い放ちきょとんとされた。案の定、巷でも人気を博しておる。何かケチつけなくてはならない立場のこたつ記事ライターが「フェミニズム盛り込みすぎ」とかいっているけど、かまわない。ええじゃないか。主役のモデルは法曹界で女性の地位向上を牽引したパイオニアなので現代用語の基礎知識では「フェミニズム」かもしれないけど、正確には「ウーマンズライツ」の問題であり、呼び方としては「ウーマンリブ」の方が身体性とボトムアップ感があって私は好き。

 

そもそもヒットしているのは、テーマ性というより、すべての登場人物が有機的に動いて統合されているすばらしい脚本にあり(捨てキャラがほぼない)、それを表現する俳優と演出に腕と技があり、普通にドラマとして面白いからだ。もちろん芸術性のある映画や舞台表現と比べてではなく、オーディナリーピープルが朝の15分観るテレビドラマとして面白い。とはいえ、朝ドラだからといってナメてかかれないのは、これを半年間15分ほぼ毎日見続けることで、作品の主要テーマである女性の地位向上も日本人に内面化され、意識改革につながるかもしれない。山田太一亡き後、力のあるドラマが放映されてよかった。

 

法曹界の女性先駆者であるモデルを研究し、現代のドラマとして共感を得るには、やはり脚本家の思慮深さがあってのことだろう。興味深いのは、いま起こっている問題を考えさせられる下りが多々あるところだ。例えば、帝人事件に基づいて警察権力の横暴さを描いた下りは、いま起きている冤罪事件のニュースとリンクする。女性の権利がない時代の離婚問題裁判は、先日可決した共同親権に憤慨するDV被害者を思い起こさせる。そのエピソードが放映されたその日のニュースと関連しているのだ。100年経ってもたいして変わっていない差別構造(女性差別のみならず)に気づき、「はて(主人公が違和感をもった時に発する決め台詞)」と立ち止まる。

 

先日友人と「100年前にあれだけ女性の地位向上に尽力した先人がいたにもかかわらず、現在この体たらくなのはなぜか」という話になり、根底には金がすべての資本主義、女性の幸せ競争などが原因としてあり、それに加担した文化人著名人の中の3悪人をリストアップして楽しんでみた(笑)(ちなみにプロデューサー、コピーライター、社会学者)。

 

いずれにしろ、ドラマは「あれはハナシだからね~」の粋を出ないものだが、虎に翼は、今日の自分の態度に降りかかってくる感じがある。エンパワーメントとはこのことでしょうか。と、また大げさになったが、しばらく楽しみに観ようと思う。

 

(メルマガMUGA第156号 7/15配信・掲載記事)

 

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