これまで2回にわたって、35年前にコロニーで出会った女子高校生の一言と、それが私の仕事観にどう影響してきたかについてお話ししてきました。

 

最後に、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)について少しだけ触れておきたいと思います。

 

ダイバーシティーとは「多様性」、インクルージョンとは「包摂」や「仲間として受け入れること」と訳されます。この言葉を聞くと、「多数派が少数派を受け入れること」というイメージを持つ人も少なくありません。

 

近年は、これにエクイティー(Equity:公平性)を加えた「DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」という表現も広く使われています。

 

エクイティーとは、全員を同じように扱うことではなく、一人ひとりが力を発揮できるよう必要な支援や環境を整えるという考え方です。

 

障害者雇用における合理的配慮も、このエクイティーの考え方に通じるものがあります。

 

しかし、私があの日のコロニーで感じたのは、「多数派が少数派を受け入れる」ということだけではありませんでした。

 

障害のある人たちは、誰かに仲間入りを許されて生きているわけではありません。

 

特別な存在として受け入れてもらうのでもなく、一人の人間として当たり前に暮らしているのです。

 

そして、その当たり前の暮らしが社会の中に存在し続けることで、人々の意識や価値観は少しずつ変わっていく。

 

最初から「受け入れよう」「理解しよう」と頑張ることによって変わるのではなく、多様な人が当たり前に存在することで、結果として社会の側が変わっていくのだと思います。

 

違いを認めるだけではなく、その違いが自然に社会の一部として存在している。

 

そのことによって組織や社会そのものが豊かになっていく。

 

それこそが、ダイバーシティ&インクルージョンなのだろうと考えます。

 

だから私は今も、「障害者を支援する」という発想だけではなく、「障害者雇用を通じて組織をより良くする」という視点を大切にしています。

 

あの日、コロニーで出会った女子高校生の一言は、30年以上経った今も、私にそのことを教え続けてくれています。

 

前回、35年前のワークキャンプで出会った、ある女子高校生の一言についてお話ししました。

 

「私はここが好き。だから、このコロニーがなくなるんじゃなくて、このコロニーが私たちの街に広がってきてほしいと思う。」

 

この言葉は、当時の私にとって大きな衝撃でした。

 

そして、この出会いは、その後の私の仕事観に静かに、しかし確実に影響を与え続けています。

 

私はその後、30年以上にわたって障害者雇用の仕事に携わってきました。

 

その中で感じるのは、障害のある人たちを社会や職場に適応させることだけが目的ではないということです。

 

障害のある人が職場にいることで、私たちは仕事の仕方を変えたり、環境調整を行います。

 

曖昧な指示を減らし、誰もが同じ判断ができるよう属人化を減らします。

 

無駄な慣習を見直し、本当に必要な仕事は何かを考えます。

 

そして結果として、誰にとっても働きやすい職場に近づいていきます。

 

変わるのは障害のある人だけではありません。組織そのものが変わるのです。

 

私は、多様性とは「違う人を受け入れること」だけではないと思っています。

 

多様な人がいることで、これまで当たり前だと思っていた価値観や仕組みが見直される。

 

その結果、組織や社会そのものが進化していく。そんな力が多様性にはあると考えています。

 

だから私は、DoReMi Work Designの「DO」に、Diversity Optimization(多様性最適化)という意味を込めました。

 

多様な人がいるから大変なのではありません。多様な人がいるからこそ、組織はより良くなっていく。

 

あの日、コロニーで出会った女子高校生の言葉は、30年以上経った今も私の中に残り続けています。

 

「コロニーがなくなるんじゃなくて、コロニーが街に広がってほしい。」その言葉は、私が目指したい社会を今でも表しているように思います。

 

次回は、こうした経験を踏まえて、私が考える「ダイバーシティ&インクルージョン」とは何かについて、もう少し掘り下げてお話ししたいと思います

大学生の頃(35年前)、私はあるボランティアセンターの運営委員として、高校生向けのワークキャンプの企画・運営に携わっていました。

 

ワークキャンプは、高校生約30人が、当時「コロニー」と呼ばれていた大規模障害者収容施設に5日間泊り込み、昼間は草刈りなどの環境整備を行ったり、施設に入所する知的障害のある方々と交流をしたりするものでした。夜になると参加者同士でさまざまなテーマについて語り合う、ボランティア学習プログラムです。




 コロニーとは、知的障害のある人たちが地域から離れた広大な敷地の中で集団生活を送る施設です。そこには住まいだけでなく、学校や病院、作業場や余暇活動の場も整備され、多くの人が施設の中だけで生活のほとんどを完結させていました。

 

当時はすでに、施設から地域へという福祉の流れが少しずつ議論され始めていた時期でしたが、地域で暮らすための支援体制はまだ十分とは言えず、社会の受け入れる側の意識も決して柔らかいものではありませんでした。その結果として、多くの障害のある人たちがこうしたコロニーで生活していたのです。

 

その中で、よく話題になったのが「このコロニーは必要なのか」という問いでした。



親元を離れて暮らし、お盆や正月になっても帰る家がない人もいました。


そんな現実を目の当たりにした私たちは、

 

「障害のある人も地域で当たり前に暮らせる社会をつくらなければならない」 


「いつかコロニーが必要なくなる社会を目指すべきだ」

 

と語り合っていました。


ところが、ある女子高校生がまったく違うことを言いました。

 

「私はここが好き。」

 

 

みんなが驚きました。彼女は続けます。

 

「ここではみんな、泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑っている。」 


「みんな人の目を気にせず、自分らしく生きている。」 


「私たちの社会はそうじゃない。周りの空気を読んで、みんなに合わせて、窮屈に生きている。」

 

そして最後に、こう言いました。

 

「だから私は、このコロニーがなくなるんじゃなくて、このコロニーが私たちの街に広がってきてほしいと思う。」

 

私は大きな衝撃を受けました。

 

それまで私は、「コロニーがなくても地域で暮らせるよう、社会を成熟させること」こそが市民運動の目指すべき姿だと思っていました。


しかし彼女は、まったく違う角度から社会を見ていました。


障害のある人たちを私たちが暮らす地域社会で受け入れられるようにするのではなく、むしろ私たちの社会の方が、ここで暮らす人たちに変えてもらうべきではないか。


ここで暮らす人たちから学ぶべきなのではないか。そんな問いを投げかけていたのです。

 

確かに、障害のある人だけが生きづらさを抱えているわけではありません。


周囲の期待に応えようとする。


空気を読む。本音を飲み込む。


人に合わせる。


そうやって私たち自身も、知らず知らずのうちに窮屈な生き方をしているのかもしれません。

 

次回は、この出会いがその後の私の仕事にどうつながっていったのかについてお話しします。

障がい者雇用が「個人の努力」で終わらないために――構造的な課題と向き合う

 

「採用はしたけれど、その後どうすればいいのか分からない」


「現場が疲弊している」


「同じ失敗を繰り返している」

 

そんな悩みを抱えておられる企業の人事担当者や現場の管理者の方は、非常に多くいらっしゃいます。

 

「採用した障がいのある社員が早期に離職してしまう。」


「職場に適応できず、出勤が不安定になっていく。」


「メンタル面の不調が長期化し、休職に至ってしまう。」


「そして、休職や復職への対応で現場も人事も右往左往する。」

 

こうした出来事は、決して特別なことではありません。支援体制が整っていない職場では、ごく自然に起きてしまうことなのです。

 

なぜこうなるのか? それは「構造的な課題」だから

 

では、なぜこのような事態が繰り返されるのでしょうか。


よくある誤解は、


「本人の能力や意欲の問題」


「現場管理者の対応力の問題」


として捉えてしまうことです。


しかし、それは違います。


根本にあるのは、支援体制の不在と、社会資源との連携不足から生まれる構造的な課題です。


障がい者雇用を取り巻く社会には、企業と連携できる専門機関が数多く存在しています。


例えば、

  • 就業・生活支援センター
  • 地域障害者職業センター
  • ハローワーク
  • 就労移行支援事業所
  • 医療機関
  • リワーク支援機関

などです。


これらの機関は、障がいのある方の就労や定着支援を専門としており、企業からの相談にも応じています。


ところが、こうした社会資源の存在を把握し、実際に活用できている企業は決して多くありません。


「そんな機関があるとは知らなかった」 


「どこに相談すればいいのかわからない」


という声は、現場で非常によく聞かれます。


その結果、本来であれば社会全体で支えるべき課題が、企業や現場管理者だけの孤立した負担になってしまっているのです。

 

「採用→離職→採用→離職」の負のループから抜け出すために

 

支援体制が整っていない職場では、こんな負のループが生まれがちです。

 

採用する → うまくいかない → 離職する → また採用する → またうまくいかない → また離職する

 

このループの中で、採用担当者は障がい者雇用への対応に追われ、本来注力したい新卒採用やキャリア採用に手が回らなくなっていきます。



現場の管理者は疲弊し、「もう障がい者を受け入れたくない」という空気が職場に漂い始めることもあります。


これは、担当者や管理者の努力が足りないからではありません。


仕組みがないまま、個人の善意と根性だけで支えようとしているから、限界が来るのです。


解決の鍵は、属人的な対応から、再現性のある連携体制への転換です。


就労支援、生活支援、医療、リワーク支援などの専門機関と企業が連携し、誰か一人に頼らなくても機能する仕組みをつくること。それが、負のループを断ち切る第一歩になります。

 

障がいのある社員が活躍できる職場は、全員にとって働きやすい職場

 

ここで少し視点を変えてみましょう。


「障がい者のための特別な環境をつくらなければならない」と感じている方も多いかもしれません。


しかし、障がいのある社員が安心して力を発揮できる職場とは、特定の人だけのための特別な環境ではありません。


それは、多様な背景を持つすべての社員にとって働きやすい職場です。


わかりやすいコミュニケーション、明確な役割分担、無理のない配慮と支援の仕組み。


これらは、障がいのある社員だけでなく、すべての社員が力を発揮するための土台になります。


障がい者雇用をきっかけに職場の仕組みを見直すことが、組織全体の底上げにつながるのです。

障がい者雇用、うまくいっていますか?――「採用できた」は、スタートラインに過ぎない


2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.7%になります。


これは従業員38人につき1人の障がい者を雇用する必要があることを意味します。


障がい者雇用は、多くの企業にとって避けて通れない経営課題となりました。


しかし、その一方で「採用はできたものの、その後がうまくいかない」という悩みを抱える企業も少なくありません。


私は30年以上にわたり、特例子会社で障がい者雇用に携わってきました。


視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害など、さまざまな障がいのある方の採用、育成、定着支援、職場づくりに関わってきました。


その経験の中で感じるのは、障がい者雇用の本当の課題は「採用」ではなく「定着」にあるということです。

 

あなたの会社は、こんな悩みを抱えていませんか?


障がい者雇用に取り組む企業の担当者から、こんな声をよく耳にします。


「採用しても、1年以内に退職してしまう」


「現場が対応に疲れ果てている」


「雇用率は達成しているのに、組織の戦力になっていない」


「何度採用しても同じことの繰り返しで、出口が見えない」



「うちだけがうまくいっていないのだろうか」と感じている方も多いのではないでしょうか。


実はこれはあなたの会社だけの問題ではありません。


日本中の多くの企業が、同じ壁にぶつかっています。


障がい者雇用の本当のリスクは「採用できないこと」ではない


多くの企業が障がい者雇用において最初に意識するのは、「どうやって採用するか」です。


しかし実際には、採用できたあとにこそ、本当の課題が待ち受けています。


早期離職――せっかく採用した方が数か月で辞めてしまう


職場不適応――業務内容や職場環境が本人に合わず、徐々に出勤が不安定になる


不調の長期化――メンタル面の不調が続き、休職に至る


休職・復職対応の混乱――誰が何をすべきか分からず、現場も人事も右往左往する


現場管理者の疲弊――個別対応が増え、本来業務との両立が難しくなる


これらは決して珍しいことではありません。


むしろ、支援体制が整っていない職場では、ごく自然に起きてしまう出来事です。

 

このブログでは、私がこれまでの経験の中で見つけてきた気づきや工夫を、できるだけ実践的な形でお伝えしていきます。


「採用はしたけれど、その後どうすればいいのか分からない」


「現場が疲弊している」


「同じ失敗を繰り返している」


そんな悩みを抱えておられる企業の人事担当者や現場の管理者の方々にとって、何かひとつでもヒントになるものがあれば、それほど嬉しいことはありません。

 

次回からは、私が現場で実際に取り組んできた「定着支援」の具体的な工夫や、職場づくりのポイントについて、一つずつお伝えしていきたいと思います。


「採用してからどうするか」――そこに本当のヒントがあります。