<白い壁:第二章・・・22>
11月に入って最初の診察日。
薬局でまゆこは亮子から、会社復帰を延長したと聞いた。
その日は11月にしては例年よりとても寒い日で、
コートを着ているのでよくはわからないが、
襟元からのぞくカットソーの首元が伸びているのが見えた。
まゆこでも、11月の復帰は難しいだろうと思っていたが、
その通りの結果になってしまった。
逆にまゆこは、医師から、
「調子も良さそうだし、常用の抗不安薬を減らしてみますか?」と提案され、
承諾したばかりだった。
雄二に買ってもらった大事に着ている白いコートは
汚れもしみもしわもない。
メイクを施したまゆこにはとても似合っていた。
亮子のコートは質は良いものだろうが、
大きなしわがついてた。
キャメル色のそれはとても目立つ。
でも亮子は意にかえさないようだった。
ちゃんと生活できてるのかしら・・・
心配になったまゆこだが、どう言い出していいのかわからず、
ただ黙ったまま、下を向いていた。
すると、突然亮子が話し始めた。
「私さぁ、なんかだらしくなったよね」
どう返事をしていいのか逡巡していると、
「あ、こんなこと聞かれても、答えにくいよね。ごめん、ごめん。」
亮子は明るくそう言うと、まゆこの方は見ずに続けた。
「何もできないんだよ。洗濯も掃除も。
やらなきゃいけないのはわかってるのに、
目の前のゴミひとつ捨てられない。
家はすっかりごみ屋敷。
メイク道具もほこりをかぶってるよ」
突然の言葉にまゆこはびっくりしたが、
合点がいくこともあった。
「強迫観念って言うの?
なんか、こうしなくちゃ、あぁしなくちゃって考えると、
逆にできなくなっちゃって、
洗濯物もたまって、たまって、たまってからやっとやるって感じ。
乾燥までは洗濯機がやってくれるけど、畳むのは自分でしょ?
それすら面倒で、放置しちゃうときがしょっちゅう。
だから、いざ着ていこうとすると、洗濯機から取り出した乾燥した服を着ることになるの。
それで、いつもしわくちゃの服ばかり。」
「先生にはそう伝えた?」
やっとまゆこから言葉が出た。
「伝えた、伝えた。
そうしたら、少しでも前向きになるような薬を出してくれたけど、
薬より、自分の自堕落さの方が勝ってるみたい。
効いてるんだか、効いていないんだかわかんないのよ。」
「そうだったんだ・・・」
そこまで話すと、亮子は黙り込んでしまった。
まゆこも掛ける言葉が見つからず、一緒に黙ってしまった。
(つづく)