<白い壁:第二章・・・27>



久しぶりにまゆこの姿を見つけた。


相変わらず、そこだけ静謐な空気をまとっているような雰囲気がある。


待合室では、お互い目礼しかしない。

静かなだけ、会話も他の人に聞かれてしまうからだ。


薬局前のざわついた雰囲気の中で話す方が気がラク。



今日はカウンセリングの時間を少し遅らせてもらった。

薬局へ行くまゆこに御礼を言う時間が欲しかったからだ。


だから、診察が終わってから、カウンセリングが始まるまで、

30分ほど時間を空けてある。



今日の診察もまゆこの方が先に終わったようだ。

亮子が診察を終えて待合室に戻ると、まゆこの姿はなかった。


一度会計を済ませて、急ぎ足で薬局へ向かった。


薬局のいつもの壁際にまゆこの姿があった。


「まゆこさん!」


思わず、声が大きくなってしまった。

薬局にいた数人が振り返る。


「亮子さん、どうしたの?走ってきたの?」


「えぇ。どうしてもまゆこさんに話したいことがあって。」


「話したいこと?」


「私、カウンセリングを受けたの。

 そうしたら、いろいろなことを受け止められるようになって、

 現実も、今の自分のことも。

 それで、この間は親にも電話で話して、

 親には泣かれちゃったけど、私のことを理解してくれて、

 いざというときには、帰ってきなさいって。

 それまでこっちに居てもいいことになったの。」


そこまで一気に話すと、亮子は胸を上下させながら、

一息ついた。


「今日もこれからカウンセリングを受けるの。

 本当は診察の後、すぐに予約を入れるんだけど、

 まゆこさんに話したくて、ちょっと時間をずらしてもらったの。」


まゆこは亮子の顔つきがカウンセリングを受ける前より

明るくなっていることに気がついた。


「それはよかったわ!

 亮子さん、顔つきが違うっていうか、

 なんだかさっぱりしたみたいな感じがする。」


「そうでしょ?

 ダメな私も、本当の私ってわかったから、

 家事ができないこととか、出かけるのが億劫になったこととか、

 全部、それが今の自分なんだって、本当の自分なんだってわかったの。

 だから、家事も、無理せずにできることを少しずつするようになったし、

 ダメなときはダメと諦めることも覚えたのよ。」


亮子の声はだんだん弾んできた。


まゆこも嬉しくなってきて、思わず微笑んだ。


「まゆこさんのおかげ。本当にありがとう。

 あの時、強く言ってくれたから、カウンセリングを受けようと思ったし、

 受けて良かったと思えるから。

 ありがとうね。」


「ううん、お礼なんて。

 私こそ、亮子さんのおかげで、いろいろ変わったわ。

 メイクをすることも、容姿を気にすることもできるようになったし、

 まだまだだけど、誰かに自分の意見を言うこともできるようになったし。

 亮子さん、ありがとう。」


「お互いにありがとうだね。」


「そうね。ありがとうの交換ね。」


くすくすと2人で笑いあった。



「あ、もうクリニックに戻らないと。

 今度、ゆっくりお茶しようね。」


「私も今、そう言おうと思ってた。

 これも亮子さんのおかげよ。」


2人は笑顔を交わすと、小さく手を振って「じゃぁね」と別れた。



一人になったまゆこは、ふぅと一息ついた。


「よかった。亮子さんのためになれたんだ。」


そう思った。


誰かのためになる・・・私にもそんなことができるんだ。


まゆこにも少し自信がついた。



(つづく)