<白い壁:第二章・・・26>
初めてのカウンセリング。
初診日に通された部屋へ呼ばれ、木の絵を描かされた。
それを見ながら、カウンセラーはいくつか質問をしてきた。
亮子はそれに素直に応じた。
ここでウソをついても、結果が悪くなるだけだ。
カウンセラーから、家族や人との縁の薄さを指摘された。
確かに、まゆこに「孤軍奮闘」と言ってしまったくらい、
なんでも一人でやろうとしていた。
誰かに頼るなんて、「負け」だと思っていた。
「こういうときは、誰かに頼ってもいいんですか?」
思わずそう口をついた。
カウンセラーは大きく頷くと、「いいんですよ。」と微笑んだ。
その一言を聞いて、亮子の中の何かが決壊した。
涙が止まらない。
カウンセラーがティッシュを差し出してくれた。
「私、私、この病気のこと、親にも言ってなくて、
一人でなんとかしなくちゃって、どうにかしなくちゃって、
そう思っていて・・・」
「今からでも遅くないですよ。実家に帰りたくないなら、
それはそれで対処しましょう。
どうしてもダメなら、帰ることも最終手段として考えておいて、
誰かに自分の状態を知っておいてもらえるだけで、
少しは安心できるものですよ。」
「安心・・・確かに、こうして話してラクになっていく気がします・・・」
「もちろん、どうしてもご両親に話せないのであれば、
カウンセラーの私にぶつけてもらってもいいんですよ。
素直な気持ちを言ってもらった方が、緑川さんにとって良い方法を
見つけることができるかもしれませんから。」
気持が緩んだのか、一度出た涙が止まらない。
カウンセリングを受けてよかった。
まゆこさんも似たようなことを言ってくれていたような気がするが、
やはり専門家の一言は重みが違う。
かといって、まゆこさんを軽んじているわけではない。
まゆこさんにも感謝しなければいけないのはわかっている。
なにより、カウンセリングを勧めてくれたのはまゆこさんなのだから。
今日はカウンセリングを受けている分、クリニックを出るのが遅い。
まゆこさんはもう薬局に行って、帰ってしまっているかもしれない。
次に会ったときにお礼を言おう。
ひとしきり泣いた後、カウンセラーに「大丈夫ですか?」と聞かれ、
「大丈夫です」と答えて、カウンセリングルームを出た。
実家に電話をしよう。
そしてこれまでの経緯を話そう。
帰ってこいって言われるだろうけど、
会社のこともあるし、もう少しこっちに居たいということをちゃんと話そう。
亮子の中で何か一区切りがついた気がした。
(つづく)