<白い壁:第二章・・・12>
今日も病院は静かだった。
小さく流れる音楽、時折、人を呼び出す声。
私語をしている人なんていない。
時々、同行者がいる人がいるが、この雰囲気を察知してか、
話すときは自然と小声になる。
が、今日はそういう人もいない。
まゆこは予定より少し早めに家を出て病院に向かった。
受付で「少しお待ちいただくかもしれません」と言われたが、
全く構わない。
待合室の一番奥、隅っこの2人掛けソファに座ると、
バッグから子猫の写真集を取り出して開いた。
予約時間より少し早く、まゆこは呼ばれた。
同じ時間のはずの亮子はまだ来ていないようだ。
アシスタントに促されて、診察室に入る。
「ここ2週間、いかがでしたか?」
医師がやさしく問いかける。
「あの・・・また、姑から電話があって・・・出ないようにしていたのに、
つい出てしまって・・・私・・・その・・・」
上手く言葉にならない。
姑・芳子のことも医師には話してある。
「また、いやな電話がかかってきたのですね。
それはかわいそうに。今は大丈夫ですか?」
医師も「わかっている」とばかりに話の接ぎ穂を見つける。
下を向いていたまゆこの涙がぽたりとワンピースに落ちた。
「無理して答える必要はないですよ。」
医師はそう言うが、まゆこが話したいのだ。
ただ、言葉が上手く出てこない。
代わりに涙が出てきた。
「主人がその日の夜に・・・電話をして・・・くれたのですが・・・
どうしても・・・あの・・・言われた内容を・・・思い出すと・・・
涙が止ま、止まらなくて・・・」
泣きながら、なんとか言葉が出てきた。
医師は根気良く、まゆこの話を聞きだすと、
何かをカルテに書き付けて、雄二の協力への感謝と、
無理せず頓服薬を飲むことを伝えてきた。
「頓服ではなく、常用薬にしてみますか?
もちろん、これ以上、薬を増やしたくないなら、
今まで通り、頓服だけにしておきますが」
この病院では、無駄に薬を処方しない。
「頓服で大丈夫です。本当にたまのことですから・・・」
なんとか涙を止めて、まゆこは答えた。
それから健康上のいくつかの質問に答え、診察は終わった。
待合室に行くと、亮子がいた。
どうやら遅れて到着したらしい。
適当にまとめた髪に、Tシャツにコットンパンツ。
Tシャツにもパンツにもしわがあった。
亮子さん・・・どうしたんだろう・・・
外見を気にする気力がなくなるようなことでもあったのだろうか?
なんだか見てはいけないような気がして、
まゆこからは声も掛けず、離れた席に座った。
(つづく)