AHn007のブログ -2ページ目

AHn007のブログ

AHn007のブログ

 

 りんごと天体というまったく異なる対象を共通の属性に注目し数量化して同じ方程式にのせたというのがニュートン力学の成功の秘訣であった。そしてこれに始まり物理学の数学的手法こそ「合理」の手本であるという思想が浸透していった。実際確かにこの手法はつぎつぎと数量化に成功し、計量化可能な自然科学の対象全般に対して、仮定された条件のもとであてはまりのよいモデルを提供してきた。基本的に自然の観察から導き出された方程式やモデルは、いったん完成すれば逆にわれわれの対象に対する概念を構成するようになる。ただ、多くのモデルは万能であるとも限らず、対象を捉える観点の違い、前提条件や考え方の違いなどによって、別のモデルが必要となったり、新たな知見、実証データの出現により修正を迫られることもある。

 

 自然科学的対象でさえこのようである中、人文社会科学や捉えどころのない対象を探求する学問分野においてはますます提案された数理的モデルは信頼性や妥当性において心もとないものとなりうる。いろいろなカテゴリーの違う物事の関係を数量化して取り扱うというのが近代合理主義の図式的な表現方法であるが、複雑な事象の単純化はまた通俗化の核心でもある。

 

 おおよそ物理学、化学、生物学、経済学、社会科学、心理学等といった順に客観化、数理的扱いが難しくなってくる。複雑系であるばかりか、対象の客観的な計量化、尺度化が適用しづらい研究分野は、デジタル化になじまないと考えられてきた面がある。思想史的に観念主義から経験主義、科学的実証主義が万能の時代となると、主観的な要素が混入しやすく各人の捉え方や見解が分かれるような分野は、科学的研究対象から除外され、科学は比較的に客観的計量が可能な分野に限って適用される傾向が強い。

 

 実証データ等に基づいて現象に対するモデルが形成され、科学的対象・現象の理解が深まる。一方で、理解が深まることで、新たな問題が開示されたり、またモデルの限界が顕在化しこのことが新たなモデル形成を促進し、少しずつ科学的世界観がバージョンアップされていくといったプロセスが科学的発展ということになる。このようなモデル、方程式世界観に対抗して大構図を提示しうる世界観は得られ難いものであった。必ずしも数学的手法を用いない哲学、文学、芸術全般といった別の表現形式によってでしかアプローチし難い領域として、科学的手法の対象としては保留される傾向にあった。

 

 このような領域にまで理系的なデジタルなアプローチを図ろうとしているのが昨今のAI等の情報科学分野である。20世紀後半、勢力を有した人文社会系の現代思想の論者らがやみくもに難解な科学的タームに言及したことに対して、一部の科学者らが強く反発。観念的で抽象度の高い「エクリチュール(書き物)」の産出が意味なく受容されていることを実証的に批判するといった出来事があった。が、今回はAI的な知が文科系領域にまで浸食しようとしていることに対して、このような知をけむたがる論者らが、強く、やや不安気に対抗しているといった形になっている。もちろん機械やAIには苦手もあるのだが、機械には困難で、人間にしかできないことを躍起になって探しているようにみえなくもない。