ある時、マウスの脳のMRI画像を撮っている時に、マウスが急に酸欠陥るというトラブルに遭遇した。慌てて大量の酸素を送ると、血管を示す細かい黒い線が画像から消え、真っ白になった。fMRI、機能性MRIが開発されたのは、偶然起こったマウスの酸欠に伴う脳画像変化がきっかけであった。
血液中のHb(ヘモグロビン)は体の各部位に酸素を運ぶ役割を果たしている。酸素と結合したHbはオキシヘモグロビン、酸素を手放したHbはデオキシヘモグロビンと呼ばれる。Hbは、酸素を手放すと磁気を帯びやすく、酸素と結合すると磁気を帯びやすくなる性質がある。酸欠に陥った脳は、酸素を手放した、磁気を帯びやすいデオキシヘモグロビンが増える。磁気を帯びると磁場の乱れが生じ、MRI信号が低下する。このため、酸欠マウスの脳の血管周囲のMRI信号が低下して黒く写ったのである。そして、大量の酸素が投与され、相対的にデオキシヘモグロビンが減ると、MRI信号が元に戻り、真っ白になった。
原子の電子配置は、エネルギーの低い軌道から、原子核に近い内側の軌道から、1s、2s、2p、3s、3p、3d、4s、4p、・・・という順に埋まっていく、としたいところであるが、実際には、たとえば、3dより4sの方がエネルギーが低く、4sの方から電子が埋まっていく。カリウムやカルシウムでは、3d軌道は空き、4s軌道に電子が入る。Caの次の3族からしばらく遷移元素で8族の鉄も遷移元素である。鉄の電子は、4sに2個、3dに6個の電子が入る。3dには5室、2人部屋があり、最大10人、つまり10個の電子まで収容可能である。この5室に6個の電子がどう入るから、パウリの原理に従うと、2個、1個、1個、1個、1個と分散されて入る。決して、2部屋空き部屋ができるような、2個(↑↓)、2個(↑↓)、2個(↑↓)とは入らない。結局鉄原子は、「不対電子」を4つもつことになる。電子はスピンしており、2個対になっていると安定で磁性ももたないが、1個のみの「不対電子」をもつと不安定で反応しやすく、また常磁性をもつ。つまり、外から磁場をかけると引き寄せられる性質をもつのである(反磁性は外部磁場を打ち消す向きに磁気モーメントが生じる性質)。
ヘモグロビン分子の構成要素であるヘム鉄には不対電子が存在するため、外部磁場に置かれると強く磁化され、周囲の局所磁場を不均一に歪ませる。このため、周囲の組織の内部で歳差運動する多数のプロトンの位相は不均一化し、MRIのT2信号が低下するのである。
脳内で機能している部位は酸素供給量が増える。大量のオキシヘモグロビンがその部位に流れ込み、やがてその部位のデオキシヘモグロビンは相対的に減少する。こうして、脳内で活動量の高い部位の信号だけが低下を免れ、白く映ることになるのである。
このBOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)効果は、当初注目されなかったが、機能的磁気共鳴断層撮影は、今では脳内の神経活動を調べるための有力な技術の一つとなっている。
Q 課題開始時の酸素消費量増加時、逆にデオキシHb増えないか?
A 安静時→課題時→安静時→ 等と繰り返す課題fMRIの撮像時、安静時のBOLD信号と課題時のBOLD信号を比較したりする。課題開始時は、急に酸素消費量が増え、酸素を運んで酸素を離したHb、つまりデオキシHbは増えるのではないかとも考えられる。実際開始時、神経活動↑→酸素消費↑→デオキシHb↑→磁場の乱れ↑→BOLD信号↓となりうるが、その後数秒たつと、脳血流が大きく増加して、酸素供給量が酸素消費量を上回り、デオキシHbが減少するため、BOLD信号が大きく増加する(positive BOLD response)。