特定の遺伝子の働きだけ破壊されたノックアウトマウスは、その遺伝子が原因であると明らかになっている病気のモデルにもなり、未知の遺伝子の機能を調べるための良い手段にもなった。DNAは二重鎖になっており、遺伝子はその片方にかかれている。特定の遺伝子のアンチセンス鎖（もう片方の鎖）を用いても、これをマウスに導入することで、その特定の遺伝子だけが機能しないアンチセンスマウスができる。
アンチセンス医薬品は、DNAやRNA等の核酸を治療に応用した核酸医薬品の１つである。通常は化学修飾（アミド架橋構造を加える等）された１本鎖のDNA（オリゴヌクレオチド）で、標的とするmRNAに結合しタンパク質合成を阻害する。
その疾患の重症化に直接影響するタンパク質に狙いを定めて、そのタンパク質をコードしているDNAから転写されるRNAの塩基配列にうまく結合するアンチセンス医薬品は作製される。
生体内において、標的mRNA以外の核酸等に、このオリゴヌクレオチドが誤って結合してしまうことのないように選別される。
上記で述べたアミド架橋構造を加える等の化学修飾は、標的mRNAへの結合性を高めつつ、生体内で分解されにくくするために核酸に人工的に修飾を加えた核酸誘導体である。
この治療の対象となりうる疾患は、アルツハイマー病のような原因タンパク質が明らかなもの、一部の遺伝性疾患、感染症、悪性腫瘍など様々である。癌は塊となって限局していれば手術により切除する（場合によって、放射線治療、化学療法、ホルモン療法等も）ことができるが、腹膜播種のように散らばってしまうと切除しづらくなる。腹膜には直接投与しやすいこともあり、このような場合特に核酸医薬品は適しており、一定の効果を期待できるようである。
病気を治す薬はこれまでの様々な化学物質に加えて、抗体医薬品（抗体は蛋白質でありアミノ酸が配列したもの。昨今では癌細胞に選択的に結合する抗体に、抗がん剤などを付加した抗体薬物複合体（ADC）等も）や核酸医薬品（塩基が配列した核酸を、一部改変したもの）等がつけ加わり、治療選択の幅は拡がりつつあるといえよう。