波動は一般に媒質を介して伝播する。たとえば、音波は、空気という媒質があってはじめて伝播する。音の伝播速度は、媒質である空気の条件(圧力等)が同じであれば一定である。大地上であっても、走る列車の中であっても、同じ速さ、約340m/sで進む。ただ、音が伝わる方向の波面の先端は、前者では1秒間に340(m)進むが、後者では、大地から見て、媒質自体が列車の速度v(m/s)で動いているため、340+v(m)進む。(音の速さに近い速度で進む飛行機などは、十分に近づいてくるまで音がしないように感じられる場合があるが、これはその飛行機の速度が大きいため、大気上を伝わる音波の速度340(m)に近づくためである。)
時速100kmで走っている列車の中央から、時速150kmの速球を列車の進行方向に、また後方に同時に投げた時、2つのボールは同時に列車の最前部、列車の最後部に到達するであろう(障害物がなくボールにかかる諸々の力も無視すれば)。これを地面からみると、たとえば列車の長さが300mの時、ガリレイの相対速度を考慮して、進行方向に投げたボールは投げた地点から前方に250m、後方に投げたボールは投げた地点から後方に50mとなる。この両地点におけるボールの速さは、進行方向に飛んでくるボールは時速250km、後方に飛んでくるボールは時速50kmということになる。
地面からみた音波の波面の速さは、音の速さに乗り物の速さを足したもの(逆方向の場合、引いたもの)、地面からみたボールの速さは、ボールの速さに乗り物の速さを足したもの(逆方向の場合、引いたもの)になる。(ただ、音の速さはいつも、媒質を基準にして340m/sである。)
では次に光の速さについて考える。速度vで動く乗り物から発された光の速さ(光子の速さ)は、地面上で観測する者からみると、光速c+速度vとなるのであろうか。光は電磁波の一種であり、音波のように空気等の媒質を介して伝播するわけではない。真空中でも伝播し、音波の時のように、基準となる媒質は存在しない(かつてはエーテルという想像物を媒質とする考えがあった)。動く乗り物(慣性系S´)からみると、光の速度は光速cであるが、地面(慣性系S)からみた時、光の速度は光速c+速度vとなるのか?マイケルソン・モーリーは実験によって、どの慣性系から観測しても光の速度は光速cになることを実証した。これを受け入れると、速度vで動く乗り物から発された光の速さは、地面上で観測する者からみても、v+cではなく、cということになる。
では、光速cに対して無視できない程速い速度vで走る列車の中央から、光が進行方向に、また後方に同時に発された際、列車の中からみて(慣性系S´)、また静止系からみて(慣性系S)、光はどのように伝播するであろうか。列車内からみれば(慣性系S´)、光は同時に列車の最前部、列車の最後部に到達するであろう。静止系からみた場合は(慣性系S)、光が両方向に発されたt秒後、光が発された位置から両方向に±ctの位置(静止系上)に達する。列車の長さの半分がct+vtとすれば、光が列車の最後部に到達した時、進行方向に発された光は、列車の最前部よりvt手前のところまでしか到達していない。つまり、列車の中央から両方向に発された光は、どの慣性系においても光速が一定であることと列車の速度を考慮することで、列車の最前部に到達するより前に最後部に到達するように観測されるという矛盾する現象が生じるのである。
ある慣性系からみた時同時に起こる事象が、別の慣性系からみた時同時ではない、といった不思議な事象、矛盾した現象を説明する理論が必要となった。こうして生まれたのが相対性理論である。
真空空間において、つまり基準となる媒質などのない空間において、基準にできるものは、2つの慣性系の相対速度、およびいかなる慣性系においても不変とされる光速である。上記のような事象、同時であるとされたり同時でないとされたりする同一の事象が起きた時間は一概にtとはできない。それぞれの慣性系において、時間(や長さ)はそれぞれの値をとると考えざるを得ない。時間や長さが一つではない、絶対ではないといった考えは、一般には受け入れ難いが、そう考えることで、既成の考え方では説明がつかなかった事象を説明することが可能となり、実際GPSなどの設計においても利用されることになる。
<2つの慣性系間の関係式>
① x´=ɤ(x -vt)
➁ x =ɤ(x´+vt´)
③ x =ct
④ x´=ct´
光源x=0(慣性系S),x´=0(慣性系S´)から光が発される時間t=0(慣性系S),t´=0(慣性系S´)とする。
(慣性系S)つまり静止系からみて時間t秒後、(慣性系S´)の原点はvtの位置にあり、(慣性系S´)における長さは(慣性系S)における長さのɤ倍であるというのが①
(慣性系S´)つまり動く列車からみて時間t´秒後、(慣性系S)の原点は-vt´の位置にあり、(慣性系S)における長さは(慣性系S´)における長さのλ倍であるというのが➁
それぞれの系における光速がcであるというのが③、④
2つの系の相対速度の絶対値は同じ値(正負は逆)でv、(慣性系S)と(慣性系S´)が同格である(どちらかが基準であるわけではない)という観点から、2つの系の間での長さの収縮の度合も同じ係数ɤが用いられている。
①~④を解くと、ɤ=1/√(1-(v/c)*(v/c))