カリフォルニア州に本社を置く
アップサイド・フーズ(Upside Foods)と
イート・ジャスト(Eat Just)の両社が、
米国農務省(USDA)から6月21日に
培養肉の販売が初めて承認されました。
培養肉の販売が許可された
世界で1番は、シンガポール。
培養肉に焦点を当てた
(ラボミートや人工肉とも呼ばれる)
ビジネスの大きな原動力として、
家畜(主に牛)から排出される
温室効果ガスを抑制できる
可能性を求めてという側面と
生き物を育てる危険性と
手間暇を省くことができるか
という側面が考えられます。
私たちが食する動物(主に牛)
から排出される温室効果ガスは、
全世界の総排出量の15%近く。
その割合は今後数十年で
さらに増加する、とされています。
農場で家畜を肥育するには、
膨大な土地とエネルギーが必要で、
そのどちらも二酸化炭素が排出。
加えて、牛は餌を消化する際に
大量のメタンガスを生成します。
(ゲップ)
これらすべてを足し合わせて
世界平均を算出すると、
牛肉1キログラムあたり
二酸化炭素換算で100キログラムに
相当する温室効果ガスを排出
している計算になります1)。
細胞レベルで見れば、
培養肉は現在私たちが口にしている
食肉と基本的に同じ成分。
若い家畜もしくは
受精卵から組織サンプルを採取し、
細胞を分離して培養することで、
屠殺を目的とした家畜の肥育
という束縛を受けることなく、
家畜由来の肉を作り出すことが。
培養肉もまた、二酸化炭素を排出します。
細胞を成長させるバイオリアクター
を稼働させるのに、
エネルギーが必要となるから。
現在、米国をはじめ
世界のほとんどの地域では、
こうしたエネルギー源に多くは
化石燃料を使っているからです。
生産施設に必要なリアクターや配管、
その他さまざまな設備には
二酸化炭素の排出がつきもの。
それらをゼロにすることは難しい。
さらに、動物細胞は栄養を与えたり
世話をする必要があり、
それに関わるサプライチェーンにも
二酸化炭素の排出が伴います。
結果、培養肉に絡む
二酸化炭素の排出量は
かなりなものになる。
カリフォルニア大学デービス校で
食品科学工学の准教授エドワード・スパングら
の研究チームが、業界の現状を前提に、
複数のシナリオを想定して
培養肉の地球温暖化効果を推計2)。
シナリオは大きく2種類。
1つめは、バイオ医薬品産業で
用いられている工程や材料を採用
した培養肉の生産を想定したもの、
特に混入物質を除去する際の
エネルギー消費が大きい
精製工程も含まれたもの。
もう一方のシナリオは、
培養肉の生産には超高純度の原料は必要なく、
代わりに現在の食品業界で使用されている
原料を使うと仮定したもの。
後者だと、牛肉1キログラムあたりの
二酸化炭素排出量は10~75キログラムと
肉牛による世界平均排出量よりも低く、
現在の一部の国における牛肉生産と同水準。
しかし、バイオ医薬品並みの工程では、
培養肉は現在の牛肉生産工程よりも
はるかに大量の二酸化炭素を排出することに。
肉牛の2.5倍から10倍の
牛肉1キログラムあたり
250キログラムから1000キログラム相当
の二酸化炭素を排出する計算に。
細菌の出す毒素を除去するのに
厳重な精製工程が必要と仮定しているため。
業界団体に所属する科学者は
そこまで厳密な精製工程は必要ないと
反論している。
楽観的な試算によると
培養肉の温室効果ガス排出量を
78~96%削減する、と。
答えが出ていない疑問が、
まだまだたくさんあります。
多くの企業がまだ大規模な施設を
作っていないからとも反論。
イート・ジャスト社は現在、
米国で実証プラントを稼働中で、
シンガポールでも
その建設を進めています。
それぞれ3500リットルと
6000リットルの容量
を持つリアクターを装備。
同社は最終的に、1基25万リットル
のリアクターを10基備えた
大量生産施設を作り、
毎年数千トンの培養肉を
生産することを計画。
目標を達成できるかどうかは、
生産工程の最適化とスケールアップ、
さらには将来の大規模生産施設の設計に
関連した複数の要素に左右される。
培養肉が近いうちに
バーガー屋に並ぶことはまだまだないようです。
【引用文献】
1)生産者と消費者を通じて食品の環境負荷を削減する(仮邦題)
Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aaq0216
2)培養肉の環境への影響: ゆりかごから門までのライフサイクル評価(仮邦題)
Environmental impacts of cultured meat: A cradle-to-gate life cycle assessment