「さて、改めて。」

克治が少しずつ冷めたコーヒーを飲みながら、
改めて言葉を発した。


「簡単にですが、説明に戻りましょうか。」
「うん、お願いするね。」


「まずはカードの種類から。
 全てをいっぺんに覚えるのは大変なので、
 基本的なものだけご説明します。

 まずは土地。
 これがないと私たちは呪文を使うことができません。」












「いろんな種類がありますが、
 基本地形、と呼ばれるものを一番見ることになります。
 平地、島、沼、山、森、ですね。
 それぞれ、白マナ、青マナ、黒マナ、赤マナ、緑マナを出すことができます。
 1ターンに1つしか場に出すことができませんが、
 ターン開始時に再度使用が出来るのでマナをうまく使いましょう。

 このゲームは、相手に勝つ、
 つまり、相手のライフを0にするのが一番わかりやすい勝ち方です。
 相手のライフを0にするために、やっぱり一番わかりやすいのは、
 クリーチャー、生物を召喚して、攻撃することです。」








「沢山のクリーチャーがいます。
 パワーが強い、弱い。
 タフネス、クリーチャーのライフのようなものですね、
 それが高い、低い。
 特殊な能力を持っているものも沢山です。
 色によって特徴が分かれるのでそこもうまく使いましょう。

 クリーチャーは自分のメインフェイズに召喚できます。
 そして、召喚したターンではすぐに攻撃やタップ能力が使えません。
 これを召喚酔い、といいます。」
「呼び出したときはすぐには動いてくれない、だね。」
「です。

 それから魔法カードですね。
 即時性のカードと、場に残るカードがあります。
 即時性のカードも2種類。

 ソーサリー、インスタントといいます。」


「どちらも、使ったらそのまま墓地にいってしまう、
 一回こっきりの能力を持つものです。
 その分瞬間的な能力が高いです。
 白なら回復、黒ならクリーチャーを破壊する、とか。

 クリーチャーもそうですが、
 魔法カードも、色によって特性があります。」
「ソーサリーとインスタント、っていうのは何が違うの?」
「使えるタイミングが違います。
 ここに2枚のカードがありますね。」












「このカードはどちらも能力はほぼ一緒。
 カードを2枚引く、です。
 まあ、《霊感》は対象のプレイヤー、と書いているので、
 そうそうないでしょうが、対戦相手にも使えたりします。」
「・・意味あるの?」
「稀に・・、あ、団体戦だと仲間に使うことができますね。
 基本自分に使うものなので、ちょっとそこは忘れてください。」
「ふむふむ。」
「話を戻します。
 ソーサリーですが、クリーチャー呪文と同じく、
 『自分のメインフェイズ』にしか使えません。
 インスタント、はざっくり言うと、いつでも使えるカードです。」
「あ、なるほど。
 相手のターンでも使えるんだ?」
「はい、使えます。」
「前にセイくんたちが相手のターンにも行動してるから、
 なんなんだろうと思ってたけど、これだったんだね。」
「そうですね。
 インスタントは、まあ直訳:瞬間、ですね。
 相手のクリーチャー攻撃、に対して、
  白なら、そのダメージを軽減するよ!
  青なら、そのクリーチャーは手札に戻って!
  黒なら、そのクリーチャーを破壊!
  赤なら、そのクリーチャーに2点ダメージ!
  緑なら、こちらのクリーチャーを強化!
 と、突然の行動がとれます。
 これで、相手の思い描いた行動が失敗します。

 相手のターンでも動ける。
 カードゲーム:マジックザギャザリングの特徴のひとつですね。」
「へえ。」
「詳しくはまた説明するとして、
 相手のターンでも動ける、つまり臨機応変に対応できるので、
 インスタントはソーサリーに比べて弱く作られています。
 ・能力自体が弱い、デメリットがある
 ・マナコストが高い
 のどちらかですね。
 デッキにあうものを使いましょう。

 それから、常時効果の続く魔法、エンチャントです。
 これも、『自分のメインフェイズ』にしか使えません。
 分類がちょっとわかれますが、
 ・何かに付与するもの。
 ・単独で効果を発揮するもの
 があります。

 さらに、
 ・効果が常時、または定期的に発揮されるもの
 ・マナや生贄に捧げることで、効果を発揮するもの
 があります。」








「効果が常時発揮されるものは、わかりやすいですね。
 このカードだと、
 エンチャントされているクリーチャーが攻撃やブロックに参加できない。」
「クリーチャーが使えなくなった!?」
「相手のクリーチャーにつけて、身を守るための呪文です。
 逆に自分につけてパワーやタフネスをあげるエンチャントもあります。」
「同じく、効果が常時発揮されるもので、
 場に残るものとして、少し古いですが、こういうカードもあります。
 全体的に効果を発揮するカードですね。」









「すごい強そう。」
「軽いクリーチャーを並べるデッキによく使われました。
 スタンダードからは落ちていますが、
 たまに、ディンさんが昔のデッキを取り出して使ってます。」
「へえ。」
「コストを払うことで発揮するカードだと、こんなカードがあります。」









「マナさえ払い続ければ、ターン終了時まで強くなれます。
 この能力は特に注釈がない限りは、
 インスタントが使えるタイミングで使えます。」
「相手のターンにも使えるんだ?」
「そうです。
 こちらも、常時発揮がいいのか臨機応変な方がいいか。
 色々考えちゃいますね。」









「こんな感じで、どっちの能力も持ってるカードもあります。」
「すっごい強そうだけど。」
「使ってみてのお楽しみですね。」


克治が軽く笑顔を返す。



「それから、アーティファクトと呼ばれるカードがあります。
 色のない、エンチャント、だと思ってもいいです。
 エンチャントは魔法ですが、
 アーティファクト、はその名前通り、人工物、ですね。」









「エンチャントのように、
 効果を発揮し続けるものもあれば、
 コストを支払うことで効果を発揮するカードがあります。

 また、人工的に作られた動く機械もあります。
 アーティファクト・クリーチャーといいますが、
 通常のクリーチャーと同じく、攻撃や防御が出来ます。

 マナコストが色つきではないので払いやすいのが特徴です。
 『アーティファクトを破壊する』という対策呪文が沢山存在するので、
 破壊されやすい部分もあります。」
「アーティファクト・クリーチャーだと、どうなるの?」
「アーティファクト・クリーチャーは、
 アーティファクト、であり、クリーチャー、です。
 『アーティファクトを破壊する』
 『クリーチャーを破壊する』
 どちらの呪文でも破壊されます。」
「なるほど。」
「言葉での説明はそのくらいにして、
 遊びながら覚えるのが一番だと思います。

 見て覚える、やって覚える。
 遊びなんですからその方が楽しいですね。」
「あ、ちょっとまって。
 さっきのインスタントなんだけど。」
「はい。」









「このカードは、呪文1つを対象とし、打ち消すだよね?
 さっきまで話してた《刺し戻し》もそう。
 どうやって使うの?」
「お答えしましょう。
 呪文は、
 使ったらそのまま”はい効果発揮ー!”というわけではありません。
 効果を発揮する前に、『スタック』と呼ばれる領域に積まれます。」
「プログラム用語が出てきた。」
「あ、そうか千明さんはプログラムわかる人ですね、失礼しました。
 プログラムでいうとスタック・キューという言葉がありますが、
 マジックザギャザリングの呪文は、
 すべてあと入れ先出し、つまりスタック形式で呪文の解決をします。」
「おお。」
「考え方は同じですが、スタック領域、という場所があると思ってください。
 例を出すと、
 千明さんの場に、クリーチャーが1体います。」







「千明さんは、アタックフェイズで、
 《ケンタウルスの武芸者》で僕を攻撃することを選びました。
 僕はブロックできるクリーチャーを持っていませんでした。
 何もしなければ、そのまま《武芸者》の攻撃、3点のダメージを受けます。」








「ここで僕は呪文を《武芸者》に向けて使います。
 ただしくは”スタック領域に載せます。”
 これで、今スタックには、

①《ショック》

 があります。」
「さて、今度は千明さんが困る番です。
 このまま呪文を解決すると、
 《武芸者》に《ショック》のダメージが与えられて破壊されます。
 さあ、そんな時、
 千明さんはこのカードを手に持っていました。」








「巨大化。」
「緑ではオーソドックスな強化呪文です。
 千明さんは《武芸者》を失いたくないと思ったので、
 《巨大化》を《武芸者》に使います。
 ただしくは、”スタックに載せます。”」









「僕はもう何も使うことができなかったので、
 何も使いません、と宣言します。
 千明さんも、何もしないことを選びました。
 さあ、スタック領域を解決させていきましょう。

 後入れ先出し、ですので、②《巨大化》から解決させます。」











「次に、①《ショック》を解決させます。」










「これで、僕の使った《ショック》は役に立たなくなってしまいました。
 現在攻撃中でしたので、
 僕は6点のダメージを与えられることになります。」
「おお、《巨大化》すごい。」


喜んでいる千明をよそに、
机の上に置かれたカードを並び替える克治。



「逆に、攻撃を優先させようと思って、
 千明さんが先に使うとどうなるでしょう?」
「ええっと・・。

①《巨大化》
②《ショック》

《ショック》から解決されるから、
《灰色熊》 2/0
そのあとに、《巨大化》が解決されるから、
《灰色熊》 5/3
で一緒?」
「違います。
 《ショック》が解決した時に、タフネスが0になってしまいました。
 次の呪文を解決する前に、
 《武芸者》は破壊されてしまいます。」











「《巨大化》は対象にしていたクリーチャーがいなくなったので、
 効果を発揮できずにそのまま墓地にいってしまいます。」
「うわ、大損だ。」
「ですね。
 呪文の応酬が続くと、どんどん複雑になりますが、結果は同じですね。
 今の二つの呪文を二人で沢山使って、

①《巨大化》
②《ショック》
③《巨大化》
④《ショック》
⑤《巨大化》

 ここで止まったら、僕が大損ですね。
 先に+3/+3の修正をされて破壊されずに、
 《武芸者》なら12/11で、僕は12点のダメージを受けます。
 当の《武芸者》はタフネスが0にならずに増えていったので、
 アタック時には11/5とまだまだタフネスが大きいです。」






「逆に、僕に呪文がもうひとつあって、

⑥《ショック》

 これが使えていれば、逆に千明さんが大損です。
 ⑥《ショック》によって、まだ2/2の《武芸者》が破壊されるので、
 ①~⑤のカードは効果を発揮せずに墓地にいきます。」











「あれ、セイくんの《ショック》はプレイヤーに変更できないの?」
「対象を取る呪文は、使用したとき、
 スタックに載せる前に○○に使います、と宣言する必要があります。
 ですので、この場合、僕の2枚の《ショック》は無駄打ちですね。
 ダメージを沢山受けずに済んだと諦めるしかありません。」
「強化カードって強いんだ・・。」
「そうでもないですよ?
 たとえば、今僕は赤いカードで破壊しようとしましたが、
 黒だと、こんなカードをスタックに載せます。」











「千明さんの手にあと3枚《巨大化》があるとして、
 使ってもいいですよ?」
「クリーチャーを破壊する・・って、使っても一緒じゃん!」
「そうです。
 ダメージを与えるものなら更なる強化で補強できますが、
 黒の破壊には別の手段が必要です。
 ・・といっても、
 この呪文はクリーチャー専用、
 先ほどの《ショック》なら、
 プレイヤーに2点と、別の使い方が出来るので、
 どっちが弱い!っていうわけじゃないです。
 使い方の違いですね。」
「むむむ・・。
 いろんなカードがあるなあ・・」

カチャ・・

「おいおい、まだくっちゃべってんのか?」



扉が開き、
トレイを持った丈が、三度部屋へと入ってきた。