映画「梅切らぬバカ」。2021年、和島香太郎監督。

 

      

 

 アラフィフで自閉症の息子(塚地武雅)と同居する占い師の母親(加賀まりこ)。息子は規則正しく生活し、障害者の作業所で箱詰め作業の仕事を続けているが、イレギュラーなことが起きるとパニック症状を起こすことが。

 母親は自分が死んだ後のことを心配し、息子をグループホームに入居させるが、グループホームからときおり聞こえる奇声などにより、近所からはホームに対する立ち退き要求が起きていた。そんな中、息子のある行動が大問題になって……。

 

 自閉症やグループホームを題材にした作品となると、深刻な内容になlがちだが、本作は決してそうならず、「観てよかった、面白かった」と思える仕上がり。

 隣に引っ越してきた少年がアラフィフ息子を誘って夜の乗馬場に侵入する場面だけはかなり不自然に感じたが、グループポームの個性的な人々の様子、母親が息子のためにグループホームに移らせたが結局戻って来たときにはうれしさを隠せない様子、隣家との対立の後の仲直りなど、ネガティブだったものがくるりとひっくり返ってほっこりさせるやり方が上手い。

 

 今後どうなるかは観客の判断に委ねる形でスパッと物語を終わらせ、80分弱という映画としては腹7分目ぐらいの尺にしたことにも感心させられた。

 この〔引き算〕の手法は私自身も小説で心がけていて、何もかも描いてしまうのではなく、お客さんに想像してもらう部分を意識して用意するようにしている。

 そのせいで、あれも書けこれも書けと足し算を要求する編集者とはこれまでに何度も衝突して仕事を失ってきた一方、〔引き算〕の小説を気に入ってくれる読者さんたちもじわじわと増えてきてくれたお陰で、今もこうやってもの書きを続けることかできております。

 

 ちなみに犬のテリーと散歩をしていた頃、グープホームの人たちと何度か遭遇したことがある。こんにちはと声をかけても返事をしてくれるのはスタッフの女性だけだったのだが、あるとき40代ぐらいの男性が「ボクは犬を触る、ボクは犬を触る」と大声で言って近づいて来たことがあった。女性スタッフさんがあわてて「○○さん、ダメだよ」と止めようとしたけれど私が「大丈夫ですよ」と答え、男性に「なでたら喜ぶよ」と言うと、男性はしゃがんでテリーを少しなでてから、「ボクは犬を触った、ボクは犬を触った」と大声で女性スタッフさんに報告していた。今思い出してもちょっとほおが緩んでしまう出来事でありました。

 

 

 迷犬マジックは、つまづいた人の前にひょっこり現れる。

 

 りりちゃん経由で迷犬マジックに興味を持ってくれた人たちも。