ドラマ「むこう岸」。安田夏菜原作。
私立の進学校に合格したが落ちこぼれ、地元の公立中学に転校した中三男子。
両親から高校受験のプレッシャーがかかり、生きる意味を見失いつつあったが、同じクラスで孤立している様子の女子から頼まれて、居場所のない子供たちのために解放された喫茶店の二階で言葉を発することができなくなった中一男子に勉強を教えるように。
そんな中、孤立している女子がうつ病の母親と幼い妹の面倒を見ているヤングケアラーで、将来への希望を持てないでいることを知り、生活保護制度などについて調べ、大学まで進学する方法があることに気づくが……。
いわゆる啓発もののドラマになるのだろうが、そんなことに関係なく構成がよくできていることに感心させられた。
主人公の少年は経済的には恵まれているが父親がパワハラ気質で、勉強以外のことはするな、生活保護受給者なんてただの怠け者だという偏見の持ち主。母親はそんな父親におびえながらも同調。
ヤングケアラーの少女は、税金で食わせてもらってるずるい人間だとクラス内でささやかれ、看護師になりたいという夢もあきらめて絶望しており、主人公の少年に対して妬む感情も。
対照的な二人だが、どちらかが相手を助けるという展開ではなく、互いに影響し合ってどちらもが生きる希望を見いだすという流れは、バディものとして上手いなあとうならされた。
しかも、心揺さぶられるドラマを鑑賞しつつ、生活保護制度は決して怠け者を助けてやるという制度なんかではなく社会に必要な制度であること、未だに生活保護に対しては今も悪意のある偏見の目があること、表面化しにくいがヤングケアラーの問題は深刻な社会問題であることなどに気づかされる。
その部分が決してお説教臭くなっていないのは、主人公の少年と共に視聴者も理解できるようになっているからだろう。これが、その道に詳しい人間の口によって語らせてしまうと、どうしても教えてもらっているような、叱られているような感じが出てしまうことになる。それぐらい視点というものは大切なのである。
原作者さんについて検索してみたところ、豊富な受賞歴がある児童文学作家さんらしい。
私もかつて、児童小説の分野でも活動したくて別名義でコンテスト入賞したりアンソロジー出版にこぎ着けたことはあったのだが、版元さんからの執筆依頼をもらうには至らずそのままフェードアウトしてしまった。
なので児童小説専門で食ってる作家さんてすごいなと素直に感心している。
ついでにちょっと宣伝。
女優でタレントの田島愛瑠さんが「小説丸」というサイトの連載で拙著「ひなた商店街」を取り上げてくださいました。ありがたやー。