滝沢志郎著「雪血風花(せっけつふうか)」。

 赤穂浪士が君主の仇討ちを遂げる「忠臣蔵」を、浅野内匠頭の側近だった若い武士の視点を中心に再構築。

 

 赤穂藩主浅野内匠頭は以前から折り合いがよくなかった吉良上野介からひどい侮辱行為を受けて耐えきれず、刀を抜いて切りつけてしまう。浅野内匠頭は即座に切腹させられ赤穂藩士たちは領地召し上げですべて浪人の身に。一方の吉良は怪我をしただけで処分はなし。

 赤穂藩の筆頭家老だった大石内蔵助は、方々に手を尽くして吉良の処分と浅野家の再興を求めるがかなわず、ついに重かった腰を上げる……。

 

 本作で大石内蔵助は、つかみ所のない不気味な男として描かれ、討ち入りの動機も仇討ちというより、自身の訴えに耳を貸してくれなかった幕府に恥をかかせてやろうぞ、というもの。その点は高倉健さん主演の映画「四十七人の刺客」に近いが、人物像も作品の印象もかなり違った印象となった。

 

 本作は討ち入りの準備を着々と重ねる内容ではなく、大石の反応が鈍いため一部の藩士たちが自分たちだけで仇討ちを遂げようと画策したり、主人公の藩士が大石から連中と親しくして情報を上げろと命じられて葛藤を抱えたりと、藩士たちに結構な温度差がある様子が丁寧に描かれている。

 討ち入りは確かに物語のクライマックスだが、自分たちはどうなるんだろうかと不安を抱えたり苛ついたりしていた藩士たちがやがて対立を乗り越えて腹をくくる過程こそが読みどころだろう。

 個人的にこの物語の構造は「ロッキー2」に似てるなと思った。「ロッキー2」では、絶対王者アポロ・クリードを相手に大善戦したものの判定負けしたロツキー・バルボアが、ボクシングはもう引退して普通の会社員になって平穏に暮らしたいと思うのだが、不器用でもの覚えが悪いせいで就職先が見つからず、再戦要求をしてきたアポロからは今度こそ叩きのめしてやると挑発され、世間の人々からも再挑戦を求められ、身体を壊して入院した恋人エイドリアンからも「勝って」と尻を叩かれて、ついに腹をくくるまでの過程に結構な時間が割かれていた。

 

 一方、映画「四十七人の刺客」で詳しく描かれていたのは、討ち入りのための情報収集や計画立案、入念な準備の過程で、構造としてはプロの殺し屋がフランス大統領暗殺を請け負う「ジャッカルの日」に似ていた。

 どこに重点が置かれたかによって、同じ話でも違った印象になるので、「ああその話なら知ってる」と安易に決めつけてスルーするべからず。特に物語を作る仕事をしている人間はね。

 

実は物語の構造が似ている「47人の刺客」と「ジャッカルの日」。

    

 

        

 

主人公が再戦を決意するまでの葛藤が物語の中心だった「ロッキー2」。