映画「ジェクシー! スマホを変えただけなのに」。

 2019年アメリカ、ジョン・ルーカス&スコット・ムーア監督。

 

      

 

 ネットライターでスマホ中毒の男(アダム・ディヴァイン)は友人も恋人もいない人生。そんなあるとき、アクシデントでスマホが壊れたため新しい機種を購入、クラウドの全データを入れ直して一安心と思いきや、日常のすべてをAIに委ねる契約になっていたことをチェックしなかったせいで、会社仲間の誘いを断るな、出会った女性に話しかけろ、などとスマホから次々と指図され、従わないでいると勝手に相手に電話をかけたりメールを送ったりされてしまう。

 やがてそのお陰もあってガールフレンドができるのだが、今度はAIが嫉妬して逆に妨害工作を始めて……。

 

 今の時代らしい設定の作品で、ところどころリアリティに乏しい場面(主人公の運動神経が急に別人みたいになるなど)があるものの、スマホ搭載のAIを準主役として採用したという一点だけでも作品としての個性を発揮している。

 内容は単純なコメディなのだが、実際にスマホからの偏った情報によって人々が人生をコントロールされてしまっている事実があるだけに、個人的にはときおり背筋が寒くなったりもして、コメディの仮面を被ったホラーとして鑑賞させてもらった。

 たとえて言うなら、兵士の自己犠牲を美化して描いたような作品でも、それを観た人によっては戦争とは残酷で怖ろしいものだと感じるのと同じかもしれない。映画や小説には、作り手の意図とは真逆の印象を与えることもあるのである。そして、それは作品として失敗だとは限らない。むしろ多面体の結晶のような、含みのある作品としてかえって記憶に残ったりするのである。

 

 ちなみに、AIは小説の世界にも進出していて、AIが書いた作品が某賞で予選通過したり、AIに作らせた小説を参考にして書き上げた作品が某文学賞を受賞したという人もいる。私自身は遊びでときどき、AIにさまざまなお題を出して小説の一場面を書かせてみたりするのだが、どこかで読んだり聞いたりした話ばかりで、AIはまだまだなんじゃないかというのが率直な印象。そのため「もっとオリジナリティを出してほしい」と再度書かせようとすると、「あなたの期待に応えられず残念です。次は別の話題にしましょう」などと半ギレの返事が返ってきたので笑ってしまった。

 

 なお、このジャンルでは先行作品として、AIと恋愛関係に陥った末に生身の人間がAIからフラれてしまうという「her/世界でひとつの彼女」があり、合わせて鑑賞してみると楽しみが増すのではないかと思う。