アニメ映画「すずめの戸締まり」。2022年、新海誠監督・脚本・原作。

 

      

 

 宮崎に住む女子高生は、廃墟の扉を探しているという若者に出会ったことがきっかけで、地震を封じる役目を果たしていた要石を抜いてしまう。要石はネコとなって逃走、各地で地震を起こそうとし、女子高生は若者とネコを追ってそれを防ごうとするが、やがてもう一つの要石までが抜かれてしまい……。

 

 地震が発生するのは地球表面を覆う巨大なプレート同士がぶつかり合うことが原因だということは中学あたりで教わると思うので、先人たちが協力して要石によって地震を封印したという本作の設定にはかなりの違和感を覚えたのだが、そこに目をつぶれば良質な冒険ファンタジー作品だといえる。アニメ映像の見事さだけでなく、この後どうなるんだろういう興味で引っ張る力を感じた。

 しかも、主人公である女子高生が幼い頃に母親を失ったトラウマや育ててくれた叔母に対する負い目などが物語を通じて曇り空から晴れ間が見えてくるという人間ドラマとしても丁寧に描かれている。

 

 小説の世界ではメインストーリーを縦軸、主人公の心の成長や家族の物語の部分を横軸と呼ぶことがあり、本作でいうと要石を追うハラハラドキドキの過程が縦軸、女子高生が抱えていた母親の死や叔母に対する複雑な感情に折り合いをつけるに至る部分が横軸に相当する。

 本作はその縦軸と横軸が共に丁寧に作られていて、しかも無理なく調和しているところに完成度の高さがあるといえる。

 

 ちなみに最新刊の拙著「ひなた商店街」であれば、客足が途絶えたシャッター通りが徐々に活気づいてゆく過程が縦軸、主人公が自分はそれほどダメな人間じゃないかもと思い直して未来に希望を見いだす部分が横軸になる。

 

 ミステリー、サスペンス、ホラーなどのジャンルだと、コアなファンの中には横軸なんか要らないという読者もいるようだが、名作として後世に残る作品の多くは、横軸もしっかりしていることを忘れてはならない。