映画「Dr.コトー診療所」。2022年、中江功監督、山田貴敏原作。

 

         

 

 人気コミックが原作のドラマから16年後の物語。

 沖縄の離島で診療を続ける医師(吉岡秀隆)は島民から厚い信頼を得ており、看護師の妻は出産を控えるなど充実した日々だったが、自分の身に急性骨髄性白血病が進行してることを知る。そんなときに台風により多数の怪我人か発生、持病を抱えていた高齢者も重篤な状態となり……。

 

 原作コミックは少し読んだことがあるがドラマは見ていない私にとって不安だったのが、登場人物を把握できるかという点だった。実際、関係性が判りにくい人物もいて、ごちゃごちゃしてる印象はあったが、そんな中でも脚本家さんが頑張ったようで、一見客でも充分に楽しんで鑑賞することができた(最後の最後のあのくだりは引っ張りすぎで失笑してしまったけど)。

 

 主人公が重病になった上に、何人もの島民が診療所に担ぎ込まれてくるという、これでもかという感じの〔谷底落とし〕の展開だが、そこは脇役である若い研修医や金銭的な理由で医学部を中退した地元の若者などの出番。ドラマや映画ではお決まりの展開だと判っていても感情移入させられるのは、前半でその脇役たちの評価を落とすエピソードをしっかり入れておくから。そうしておいて、終盤に活躍させたらギャップが大きくなって観客は心を揺さぶられるってわけです。

 たとえば、どこも身体の具合が悪くないときは気持ちは無の状態だが、背中がかゆくなって、かいたら気持ちがいい、というプラスの快感が生まれる。これは、かゆいというマイナスの状態を提示するからこそ。

 プロの作家さんたちはこれが判っているから、登場人物をいったん谷底に落とすわけです。小説家や脚本家を目指す人は、本作を複数回観てその辺りを学ぶことをお勧めしたい。