大倉崇裕著「犬は知っている」。

          

 

 警察病院に配置されたファシリティードッグとそのハンドラー警察官が、新たに浮上した事件を解決する連作短編集。

 ファシリティドッグとは、職員の一員として特定の施設に勤務する犬のことで、特別な専用の訓練を受けている点でセラピードッグとは区別されるとのこと。

 

 ゴールデンレトリバーのファシリティドッグ、ピーボは、ハンドラーと共に警察病院に入院している子どもたちの心を癒やす仕事をしているが、実はもう一つの重要任務があった。

 それは、重病になったり重傷を負った受刑者を収容する病棟に出向き、ピーボと二人きりにさせているときに、受刑者が新事実を口走ったりするのを首輪に仕込んだマイクを通じて録音し、未解決事件を解明するためのとっかかりにすること。

 実際、ピーボーに心を開いた受刑者たちは、起訴された事件のうちの一つは自分ではないと話したり、別の事件を見聞きした話をしたりする。

 しかし、どの事案も既に解決済みとされていたり管轄の警察のメンツにかかわってりするためおおっぴらに捜査をするわけにはいかず、ピーボを連れての地味な聞き込みと資料編纂室の女性巡査からの情報を駆使して何とか真相にたどり着かなければならなくて……。

 

 私も「迷犬マジック」のシリーズを書いているので、「おおっ、犬がこんな形で活躍する設定があったのか」と目を見開かされた。

 重病で死期が迫っているとはいえ、無言でそばにいるだけの犬にそうそう驚愕の事実を話すものだろうか、という点が気になる読者もいるだろうけれど、そこはお約束として目をつぶりさえすれば、ミステリーというジャンルの幅をさらに広げた作品として拍手すべきだと思う。

 こうしてミステリーというジャンルはますます領域を広げてゆくのです。

 

 個人的に気になったのは、作中に二回出てきた、転落死が飛び降り自殺だったのか他殺だったのかというくだり。実は自殺か他殺かは、転落時の姿勢、転落地点と建物の壁との距離、着衣の乱れ、死亡以前の本人の行動、叫び声があったかどうかなどで検死官はだいたい見極めることができるはず。自殺の意思を固めていれば、身だしなみを整えるし、生前は周囲に気づかれないよう逆に明るく振る舞うし、建物の上から見下ろすと外壁や突起物にぶつかるような気がするので遠くに飛ぶし、地面に衝突するまで意識があるので本能的に防御姿勢を取るのである。