映画「聖(さとし)の青春」。2016年、森義隆監督、大崎善生原作。

 

       

 

 羽生善治棋士と互角の戦績を誇った天才棋士、村山聖(松山ケンイチ)の29年間の生涯。

 幼少期から持病を抱えていたが入院中に将棋セットを父親からもらったことがきっかけでのめり込み、やがて当時の絶対王者だった羽生善治棋士を脅かす存在に。

 しかし病魔によって身体は既に深刻な事態に……。

 

 羽生善治棋士に勝利した後、意を決してその羽生さんに声をかけて大衆食堂でサシ飲みする場面が印象的だった。村山聖さんが好きなマンガや麻雀、競馬の話を振っても羽生さんは全く興味がないことばかりなので妙な間ができてしまい、チェスならやってますけどと返答(羽生さんがときどき将棋をお休みしてヨーロッパでチェスの試合に出ているのを某番組で見たことがある)。

 

 あくまで個人的な見立てだが、村山さんがプライベートな時間に将棋から離れて全く別のことに時間を費やしてきたことが、羽生さんと互角の戦いができた理由ではないかという気がする。もし村山さんが将棋一筋で、寝ても覚めても将棋のことで頭がいっぱいだったらかえって視野が狭くなって、奇抜な手で羽生さんを苦しめることもなかったと思うのである。

 

 そういえば、アニメ監督の細田守さんだったと思うが、ラジオ番組の中で「プロのアニメーターを本気で目指したいなら、アニメやマンガばかりに浸っていてはダメだ。いい小説やいい映画にたくさん触れないと」みたいなことを話していた。

 

 私自身も、小説のことばかり考えないようにして、筋トレ、釣り、イヌやネコとの暮らしなどを楽しんできたが、気がつけばそれらが小説のネタになってくれた。

 でも、最初から小説のネタにするつもりでそれらに手を出していたら、きっと話を〔置きにいってしまう〕感じになって、読者の心には響かなかったのではないかと思っている。

 なお、主演の松山ケンイチさんは村山さん本人に寄せるために体重を20キロ増量したとのこと。