ドラマ「下剋上球児」は、万年一回戦負けだった高校野球部を舞台に、かつて強豪校で選手だった男(鈴木亮平)が新たに監督となり、紆余曲折を経て県大会の決勝戦にまで勝ち上がるという話で、それなりに楽しませてもらったのだが、二つ気になったことがあった。

 

 一つは、ちばあきお先生の「キャプテン」の呪縛。名門中学で二軍の補欠だった谷口君が弱小校の墨谷二中に転校してきたことをきっかけに、周囲の勘違いや主人公の努力などによって、最後は強豪校相手に大善戦するという内容だったのだが、あのストーリーが前提として存在するせいで、後発作品はそれといかに違う話にするか、そして超えられるかという問題に直面することとなる。それほどの名作だったのだが、後発の野球ものはみんな苦労してるだろうなと同情したくなる。

 

 本作もそれが影響したのか、最終回は知らない高校との対戦になったり、大善戦したものの惜しくも敗れたという結末を採用できなかったりして、「えーっ、こんな最終回では物足りないぞー」となってしまった。

 

 もう一つは、視聴者によってはもっと見たかったくだりがあったはずだということ。個人的には、弱小チームがどうやってスキルアップしたのかというところこそ見たかったのに、練習試合を多く組んだという数か月の様子を駆け足で描いた回だけで驚異的に強くなった、とされてしまったところが物足りなくて仕方なかった。

 選手一人一人の技術と体力の向上をもっと時間をかけて丁寧に描いてくれないと説得力がないではないか。真に残念。

 

 思い出すのがアニメの名作「エースをねらえ!」。主人公の女子高生は最初はまるで実力なんてなかったのだが、物語が進行する中でさまざまなスキルを身につけてゆき、終盤には過酷な筋トレもやってパワーをつけて、憧れの存在だった先輩を倒すという話で、説得力もあり、心が揺さぶられた。中学生のときでした。

 

 ちなみに拙著では、「筋トレの場面が細かすぎると思った」「釣りの場面は興味がないので斜め読みした」などというコメントをちょいちょい書き込まれたりしてきたのだが、そういう場面を丁寧に描いたからこそ物語に説得力が出たのだと思っている。実際、「釣りの場面はディテールがしっかりしてて読み応えがあった」「筋トレの場面は参考になった」とコメントしてくれる読者もたくさんいる。

 小説やドラマなど物語作品は、誰からも好かれることなんてありえない。最終的には、どっちの読者を向いて書くかということになるが、迷ったときは自分が書きたいことを優先した方がいいと思う。