楡周平著「限界国家」。

 

     

 

 少子化がこのまま進むと超高齢者社会となり、経済力が落ちて国際競争力を失い、国家財政も破綻してしまうことが予想されるにもかかわらず政治家も役人も経済界も有効な手を打てないでいる現在。

 このことに危機感を覚えた経済界の重鎮が、世界最大級のコンサルティング会社に近未来の姿を調査してほしいと依頼したところ……。

 

 全編にわたってほぼ、元官僚やベンチャー経営者などに面会してのインタビューという地味な構成なのだが、内容が実に興味深いことばかりで、知的好奇心という船で大海原を航海しているような感覚で一気読み。

 目からウロコ的な推測が次々と提示され、驚いたり納得したりの連続で、ある意味ミステリーを読む醍醐味も兼ね備えた作品だった。

 

 いくつか列挙してみると――。

 政治家は国家の将来などより目先の主張をしないと票が集まらないし、会社経営者も目先の収益を最優先にしないと株主が納得しない。要するに政財界の中心にいる人間は自分たちが死んだ後のことなど関心がない。

 AI機器の劇的な進歩により産業構造が大変革を迎えることとなり、道路は自動運転化されてドライバーが仕事を失い、オフィスや工場も従業員がどんどん不要になるなど、飲食や観光など一部を除いて多くの職業が消えることが予想される。

 少子化が問題視されているが今後は低所得者や失業者が増えることが考えられるので少子化はむしろ時代に適応したものと考えることができる。ところが政財界の年寄り連中はその未来予想がまるでできていない。

 少子化の進行は韓国や中国の方が日本よりもはるかに深刻な進み方をしている。

 日本の未来を憂う年寄りが多いが、こんな状況にしたのはその年寄りたちであり、何の責任もない若者たちの尻を叩いて何とかしろというのは筋違いである。

 若手ベンチャー経営者は国境や人種など気にしておらず、ネットを通じて世界規模で人材をスカウトし、プロジェクトごとに離合集散をするスタイルが今後は経済活動の主流になると予測される。日本が生き残れるかどうかはベンチャー企業にとっていい環境を整えることができるかどうかにかかっているが、既得権益にしがみつく大企業や政治家たちがその足を引っ張る可能性が高い。

 

 などなど。私自身も以前から、食糧や資源のことを考えると地球のキャパシティや日本の国土に対して人間の数は多すぎると考えていたので、少子化の流れは止めようがないことであり、むしろできるだけスムーズにその流れに沿った未来社会を作ってゆくことが大切だという作中での提言は、まさに我が意を得たり、だった。

 

      

 

 その他、作中では、医療界と大手製薬会社との癒着により〔患者〕を作り出すシステム、革新的な技術開発ができない大手企業の構造的欠陥なども明らかにされており、大変勉強になった。高校や大学の教材として採用してほしいぐらい。
 みなさん、この小説はただの小説にあらず。現代の黙示録かもよ。