「気持ちがズーンとなってることに気づいたら、手首に嵌めた輪ゴムをパチンと弾(はじ)くといいですよ。」
コンクールの前の調律で、アクションの中から出てきた黒い輪ゴムを見て、10年前に心理カウンセラーから言われた言葉を思い出した。
あの頃、今日のような暑さの中でも、冷や汗で寒くて上着を着続け、うまく呼吸ができない日々が続く中、
小さな瓶に入った柑橘系のコロンと、手首に嵌めた黒い輪ゴムが、発作の時の僕を救ってくれていた。
ピアノの中に紛れ込んだ黒い輪ゴムを拾いあげて、
これから始まるコンクールの、誰にも気づかれないで震えている挑戦者の手首に
心の中で、そっと嵌めてあげてみた。