仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

仕事のこと、日々の暮らし、趣味のことなど、何気ない日常の中にあるささやかな輝きを忘れないように。

ピアノ調律師をしています。何気ない日常の中に密かに隠れている輝きを見つけたい、そんなことを考えながらつらつらと書いています。

ピアノの調律で出会ったピアノ、持ち主様とのなんとも深いストーリーを書いていきます。また古いものが大好き。特にイギリスのアンティークなんて良いですね❗手巻きの時計とか万年筆とか古い椅子とか、思い入れのあるものについても綴っています。

「高永さんって、ホント面白い人ですね。」


ごく普通の感想や、たとえ話に対して、彼女は大げさなほどのリアクションだった。


「私は小さな頃から、教育テレビしか観てきませんでした。漫画も許されなくて。」


50歳を超えて、成人した娘さんもいる彼女は、「塔の上のラプンツェル」のまさに現代版を生きてきたらしい。


子どもの頃は親から、そして結婚してからは夫から「外の世界は悪で満ちていて危険だ」と、安全な塔の中だけで生きてきた。


そんな彼女も、小田さんのコンサートに行ったり、チッチとサリーの漫画を買ったりして、少しずつ、自分の殻を破ろうとしていた。


「高永さんから、勇気をいただきました。」


一年前にそう言いながら、体調を悪くして、病院に行くというLINEを最後に、音信は途絶えた。



最近、彼女が病気で亡くなったことを風のたよりに聞いた。


僕は彼女の人生を語れるほど知ってはいないし、その資格もないけど、


それでも、人生の最後に生の小田さんの音楽に触れられたことや、


塔の外の世界(教育テレビ以外)にも、美しいものが沢山あるということに気づけたことは、


きっと幸せなことだったんだと、


僕は、思う。


ようこさん、


今までお疲れ様でした。ゆっくりおやすみください。


そしてそしてまたいつか、


「高永さんって、ホントに面白い人ですね。」って、


笑ってください。



「まるで昨日まで会ってたみたいですね。」


10年ぶりに会った彼女は、電車の中でも大きな声で笑い、コンビニで買ったクレープを口に運びながら、僕にそう言った。


韓国人の彼女は、日本での仕事のあと、今ではイギリスで活躍している。最近はアラビア語を勉強しているらしい。


「歳取ればみんなそうなるじゃないですか?私、そんなこと気にしないです。」


母に会ってくれたあと、そう言いながら、豪快に笑う彼女のどこまでも前向きな姿勢に、


忘れかけていた何かが、胸の中で息づいているのを


僕は感じていた。






「真の理解とは、多くの誤解の積み重ねのことだ。」


ラジオから流れてきた村上春樹の言葉だ。


物事は、一面だけではわからない。


ボテっと大きくて嫌いだった紫陽花も、


赤がドギツすぎて苦手だった立葵も、


年齢や心境が変わると、愛らしく思えるようになった。