五月雨や人語り行く夜の辻
鑑賞: 五月雨(さみだれ)は旧暦五月の雨だから、
梅雨と同義と読んでよいだろう。
そぼ降る小雨のなかの夜の辻を、
何やら語り合いながら行く人ふたり。
それぞれの灰色の唐傘の表情が、
ふたりの関係を示しているようだ。
だが、もとより作者の関心は話の中身にあるのではなく、
情景そのものが持つ抒情性に向けられている。
さっとスケッチしているだけだが、
情緒纏綿たる味わいがある。
籾山庭後は、子規を知り、虚子を知り、
永井荷風の友人だった出版人。
この句は大正五年(1916)二月に
自分の手で出版した『江戸庵句集』に収められている。
なぜ、そんなに古い句集を、私が読めたのか。
友人で荷風についての著書も多い松本哉君が、
さきごろ古書店で入手し、
コピーを製本して送ってくれたからだ。
「本文の用紙、平綴じの針金ともに
真っ赤に酸化していて崩壊寸前」の本が、
八千五百円もしたという。深謝。
いろいろな意味で面白い本だが、
まずは荷風の長文の序文が読ませる。
この句など数句を引いた後に、こう書いている。
「君が吟詠の哀調は
これ全く技巧に因るものにあらずして
君が人格より生じ来りしものなるが故に
余の君を俳諧師として崇拝するの念更に
一層の深きを加へずんばあらず」。
(清水哲男)
五月雨の降のこしてや光堂…………松尾芭蕉
五月雨や大河を前に家二軒…………与謝蕪村
五月雨や上野の山も見あきたり……正岡子規
四国の梅雨入りはいつになるのだろうか?
小川下池の池守になってから雨量が気になる!!
2024年6月2日