「青いソラ白い雲」 | 物書きの大脳辺縁系~ライター・白土勉のブログ

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【大脳辺縁系】脳の中で、感情や記憶、本能行動を司る中枢となる部分。
 サラリーマンから転身した脚本家、白土勉の感情(日々思うことや気になるニュース)や記憶(今までの仕事や経験談)、本能行動(執筆に関するあれこれ)などを書こうと思います。

今日は打ち合わせ二本を終えた後、待ちに待った試写でした。
「デスノート」や「ばかもの」の金子修介監督の新作「青いソラ白い雲」という
作品です。

【物語】
高校を卒業したリエ(森星)は、アメリカの大学に進学するため母親と一緒に
渡米するが、その翌日に東日本大震災が発生。母親と離婚した父親(渡辺
裕之)や友人の安否が気になり、日本に戻った彼女は、震災ボランティアを
している恋人から、震災によって飼い主がわからなくなった犬・ソラを預かる。
一方、震災の影響で父親の営む会社が倒産して、リエには犬のソラだけが
残される形となってしまい……。  (シネマトゥデイより)

いつも通り(とは言っても、レビューはまだ一度だけですが)ネタバレをしない
ようにストーリーの細かいことは避けつつ、感想を書きたいと思います。

普通、震災について描くとなると、被災地を舞台として考えると思うのですが、
本作の舞台は一貫して東京です。東京ではありますが、リエは放射能測定
器(ガイガーカウンター)を手に怯えてますし、元彼から押しつけられるのは
震災から生き延びた犬です。父親の会社が倒産するのも、震災が影響して
います。震災後の東京に戻った日常という、正に今、我々が日々を過ごして
いる世界と同じ舞台の中で、物語は進んでいくのです。

私たちはあの日、被災地で起きた凄まじい光景を、ニュースの映像を通じて
沢山見てきました。それをどんなに再現したとしても、被災地の状況をどんな
に描いたとしても、ニュース映像を上回ることを伝えるのは非常に困難ですし、
今、それをすべきではないでしょう。だからこそ、この“震災後の東京”という
切り口は斬新でありますし、とても素晴らしいと思います。

映画が始まり、すぐにハッとしました。ヒロインであるリエの目力に。

柴崎コウさん、広末涼子さん、北川景子さん――今までにも初めて女優さん
を見た時に、同じような感覚を覚えたことが何度かありました。今、それらの
女優さんたちは皆、押しも押されぬ人気女優となっています。

本作のヒロインは森星(もりひかり)さんという新人の方で、モデルとして活躍
されてる中で監督の目にとまったとのことです。この目力が、鬼才と称される
監督の心を奪ったのだろう――そう思わせる程に、素敵な眼差しです。この
女優さんは、いずれ前出の女優さんたちと肩を並べる人気女優となるのでは
ないでしょうか。つい、そう期待してしまいます。

けれど、本作の中で、リエの目は初め、何も見ていません。恵まれた環境の
中で、どんなに目の前の物や人を見ていても、見てないのと同然。人の心
も思いやれず、自分のことを棚に上げて人を批判するような子で、どんなに
目力が素晴らしくても、それは空虚なものでしかありません。

それが、震災後の東京に戻り、思いがけず様々な災難が降りかかり、“プチ・
サバイバル”を強いられる中で、次第に目の前の物を、人を、何より人の心を
しっかりと見るようになっていくのです。リエの目も、どこか空虚な感じが消え、
真っ直ぐに現実を見つめる目へと変わっていきます。この少女の成長ドラマが
穏やかに、時にユーモアを交えながらテンポ良く綴られていくのです。

監督の書かれた小説「夏休みなんかいらない」の読後にも感じたことですが、
よく考えればとてもシリアスで重いシチュエーションをとても爽やかに、そして
穏やかに描くからこそ、ラストの感動が大きくなるのだと分かり、物を創る者
として、とても良い勉強をさせて頂きました。

96分の作品でしたが、あっという間に感じました。それ程、のめり込んで観て
いたということだと思います。

試写会終了後には監督もいらっしゃり、久しぶりにお会いしてご挨拶も出来
ましたし、今日はとても素晴らしい日となりました。

金子監督、お誘い頂き、本当にありがとうございました。

身近に居そうなヒロインが困難に巻き込まれる様にドキドキしながら、最後
には少しの勇気と、明日も前向きに生きようという元気を貰える作品です。
ご興味をお持ち頂いた方は、是非、劇場でご覧頂ければと思います。

 ◎詳しい情報はこちら
   「青いソラ白い雲」公式ブログ



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