シナリオを80本も書いてきますと、色々な作品を手がけますし、色々な
出来事があります。
以前に書いたと思いますが、私はどちらかと言いますと、いえ、圧倒的に
手がけた仕事はVシネマが多いんですね。そして、Vシネマと言うと、メ系
の作品か、ちょいお色気の作品が殆どでして私は一時期、前者ばかりを
書いている時期がありました。
え? メ系って、何かって? 傷ですよ、傷。ほっぺの( ̄m ̄*
(▼▼メ ← こんなお兄さんたちが活躍するジャンルです。
そういうジャンルの作品には、いわゆる実録と呼ばれるものもありまして、
時にはその世界の方の取材に行くこともあります。
忘れもしません。最初に、取材に行くように言われたときのことを。日本海
側の某所に取材に行くよう、プロデューサーの方から言われました。
「分かりました。それで、どちらで待ち合わ……」
「俺、忙しいんだよ。一人で行ってきて」
え?…・・・……一人で?
…………えええええっ!?一人でって、アローンって奴ですかい?
ようやく言葉が脳みそに到達し、事態を飲み込んだ私が驚愕した時には、
携帯から発信音が漏れているだけでした。かけ直す勇気もありません。
翌朝。某駅前。空港行きのバスに乗る時には、既に覚悟を決めてました。
「きっと、俺、海に浮かぶんだろうな……いや、沈むのかな……」
私の中には、その手の人に会えば、命はないという固定観念があります。
まだ、私がそのジャンルの作品を書き始めてすぐの時のことです。
「この時期(一月)の日本海……冷たいんだろうな……」
ふと、朝焼けの中に佇む駅前のパルコを目に焼きつける私。もう二度と、
この景色を見ることはないんだなと思うと、行きなれたデパートも、行き
交う名も知らぬ人たちも、ゴミにたかるカラスさえもが、無性にいとおしく
思えてきます。きっと、この時の私は、今までの人生で最も慈しみの愛
に満ち溢れた存在となっていたように思います。
「ブレードランナー」のルトガー・ハウアーの気持ち、分かります。
羽田に着き、搭乗を待つ間、最後の晩餐(時間的には朝食)とばかりに、
サンドイッチを味わい、コーヒーを疲れた胃に流し込みます。今日のこと
が気になって気になって、眠れなかったのです。
そんな状態のまま、不安というよりも恐怖に近い気持ちを抱えて、目的
地の空港に着く私。
「全てが夢でありますように……あるいは、プロデューサーのお茶目な
ジョークでありますように……あるいは……」
ビビリーな私は、往生際が悪いです。
そんなこんなで到着ロビーを出ると、明らかに異様な雰囲気の集団が……。
あ、黒い。全身、黒づくめって、本当なんだな♪ ……いやいや、喜んでる
場合じゃねーし。皆さん、険しい表情を浮かべ、鋭い視線で周囲を見回し
てるし。やべー。決めていたはずの覚悟が吹っ飛んだ。
後は、頭の中は真っ白で全く記憶なし。人間って極限状態になると思考
回路が停止するように出来ているんですね。
そんな風に恐れ、戦きまくった私ですが、今も、ちゃんと生きています。
このブログを書いているのです。
結局、メ系の方々から客人として歓待して貰い、取材も無事に済んだよう
です。「ようです」というのは、やはり記憶がおぼろげで、はっきりとは思い
出せないから。
何故、こんなことを書いたかと言うと、毎年、この時期になると、ふと思い
出すからです。朝焼けの中のパルコを。今日も、その駅前を通った時に、
思い出しました。まだ若かりし頃の自分を。
あれから色々な作品を書いて、色々な経験もしてきた私ですが、今でも
ちょっとビビリーだったりします。
案ずるより産むが易し。
あ、今日も、ちっとも短くなかったな( ̄‐ ̄;
おしまい。
