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以下の本からの転載です。
(佼成出版社さま に了解をいただきました)
- 生きる意味への問い―V・E・フランクルをめぐって/山田 邦男
佼成出版社
- ¥2,415
- Amazon.co.jp
また元々の出典は、
死者と生者の仲良し時間 鈴木秀子
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紹介するのは、小児ガン(白血病)で亡くなった六歳の「けんちゃん」という
子どもの話です。けんちゃんが亡くなったその日の夜、担当医の一人が、
悲しみに沈むけんちゃんの両親に次のようなうち明け話をしたそうです。
「それは昨日の午後のことでした。もう、けんちゃんはいつ息を引き取っても
おかしくない状態でした。お母さんはちょうど病室をあけておられました。
ぼくが病室に入ろうとした時、その気配に気づいたのか、けんちゃんは
顔をドアの方に向けました。ぼくはけんちゃんに何かいわなきゃと思いました。
ところが、慰めや励ましの言葉は出ず、自分でも予期しないのに、
『けんちゃん、先生疲れているんだ』といっちゃったんですね。
けんちゃんは、ぱっと大きな目を見開いてぼくを見ました。
けんちゃんの両目に光が差し込むのがありありと感じとれました。
けんちゃんは両手両足を少しずつ縮めたり伸ばしたりし始めました。
そして、体をベッドの枕の方向に動かそうとしています。
息がもう尽きそうなけんちゃんの、どこにこんな体力があったのでしょうか。
ぼくはぼう然として、けんちゃんの動きを見つめているばかりでした。
ぼくが見ているのも忘れたかのように、けんちゃんは必死でベッドの上の方
に体をずらして行きます。
ありったけの力をふりしぼって、一センチ一センチと、まるで絶壁をよじ登る
登山家のように、命尽きる寸前の体を動かしていくのです。
長い時間をかけ、ついに、ベッドの上端にたどりついて、ベッドの枕板に
体をくっつけることに成功しました。かすかに息をしているけんちゃんは、
両足と両腕を曲げ、小さく丸まっています。体につけられた点滴の管がまるで
へその緒のようで、けんちゃんが胎児になったように見えました。
けんちゃんはあえいでいた息が静まると、ぼくの方をじっと見つめて、
にっこり笑いました。そして、指差す力もないのか、大きな目で広く空いた
ベットを指し示して、こういいました。
『先生、ここに寝れば』
そのひとことが、ぼくの胸にぴーんと響きました。ぼくはわかったんです。
ぼくが『疲れた』といっただけで、それこそまさに命懸けで、けんちゃんは、
ぼくの休む場所を作ってくれたんです。」
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