アイヌ語研究をされていた言語学者の金田一京助さんの本に書いてある アイヌの老婆の話です。
かなりはしょってますが
アイヌのコポアヌ婆さんが金田一さんの語学の助手になってくれる事になった。東京まで上京してくれて金田一さんの家族みんなと いっしょに食事をするのだが、甘いものが好きで 汁粉などは喜んで飲んでくれるのだが、最後に人差し指を椀につっこんでぺろぺろ舐めるのだそうです。それどころか最後はその指を髪の毛や服で拭くそうです。豚汁などでも同じ事をするので油だらけで家族がいやがったそうです。
ところが金田一さんは そのときコポアヌ婆さんがなにかをつぶやきながら その指を頭や服になすりつけているのに気がついて自分の勘違いを恥じたそうです。
アイヌの人は 人差し指を「椀嘗指」(イタンキケムアシケベツ)というそうです。せっかくの賜り物を少しでも残したら申し訳ないと言う気持ちと 食器を洗わずに済むようにと そして頭にこすりつけるのは大切な賜り物を自分の守護神(カシカムイ)に与える行為なのだそうです。
金田一さんはこのエピソードをヒントにある悩みが解けたそうです。「賜わる」「賜う」などの語源が
なかなかわからなかったそうなんですが、「ものを賜る」という心持ちは 「御霊に触れる」ということに他ならなかったとわかったそうです。
なんという純真なつつましやかな心情のあったものであろうかと書いておられました。
最後にコポアヌ婆さんがつぶやいていた言葉というのを写しておきます。
「旦那方の召し上がりもの、殿方の召し上がりもの、この老いの身にかずけいただいて、あわれ老いさらぼいたる骨も身も、のびのびとした心によみがえった。旦那方の尊い御霊に触れ、殿方の盛んな幸運に、ともしき老いの魂もよみがえるがに・・・」