前回主任研修の記事を書いた日の前日、国家試験の合格発表がありました。
自分も所有する社会福祉士・精神保健福祉士の合格発表でした。
ここ最近、合格率が以前よりも高くなっている傾向が見られます。
今回の合格率は60.7%で、これまでの社会福祉士国家試験で最も高い合格率となりました。私が受験した時の合格率は31.4%で、今まで私の中では何となく「合格率30%台」を念頭にした基準のようにも感じていました。
そこで、過去の合格率なども改めて調べてみました。
今回の試験を含め試験は38回実施され、全38回の受験者数・合格者数から出た合格率は30.9%でした。社会福祉士の受験資格を得るためのカリキュラムは過去に2回改定されており、前回の国家試験は新しいカリキュラムになっての試験となりました。そこで「カリキュラム改定」というポイントで合格率を見てみました。
合格率の分析として、3つに分けてみました。
1つ目は法律制定時のカリキュラムで受験した人の合格率、2つ目はカリキュラム変更が行われた時に受験した人の合格率、3つ目は現在のカリキュラム(新カリキュラム)で受験した人の合格率です。参考までに直近5年(過去5回)の合格率も調べています。
1つわかるのは、新カリキュラム前と後の合格率に差があります。
新カリキュラムに移行する前は平均して30%台の合格率でしたが、新カリキュラムに移行した後はその合格率が一気に高くなっています。ただし新カリキュラムでの試験はまだ2回しか行われていませんので、単純な比較はできません。
もう1つ、合格基準という面で見てみたいと思います。
社会福祉士国家試験の合格基準として「総得点の60%程度を基準」となっており、そこから問題の難易度で補正して当該試験の合格基準が決まります。第14回までの試験では試験の正解が公表されていませんでしたが、第15回の試験から正解が公表され、合格基準も公表されるようになりましたので、第15回試験からの合格基準を調べてみました。
実施回によってある程度の差は見られますが、総得点が150点の時は全体の56%から59%程度の得点で合格できていましたが、総得点が129点(新カリキュラム)になってからは全体の43%程度の得点で合格できています。ちなみに正解が発表されて一番合格基準が高かったのは第34回試験で、その時は全体の70%(105点)が合格点でした。一方最も低かったのは今回の第38回で、全体の39%(50点)が合格点でした。
こういった比較をすると、試験に対する考え方が変わったのかなと感じます。
その1つになるのが、令和4年1月17日 の社会福祉士国家試験の在り方に関する検討会が出した提言「社会福祉士国家試験の今後の在り方について」があります。この提言では今後の社会福祉士国家試験に向けての方向性が提示されており、その中には関係団体(日本ソーシャルワーク教育学校連盟・日本社会福祉士会)からも意見が出されています。その意見として、次のようなものがありました。
・社会福祉士への社会的な期待の高まりと今後の福祉人材の確保の観点から、より多くの社会福祉士を社会に輩出できる国家試験制度とすべきである。 (日本ソーシャルワーク教育学校連盟)
・国家試験問題としては、ソーシャルワーク専門職に求められる基礎的な知識の習得を問う問題群(基礎的問題)と、その基礎的な知識に基づいた判断力を問う総合的な問題群(総合的問題)とすることが必要です。なお、総合的問題は、科目を限定しない横断的な事例問題を基本とし、さまざまな科目の基礎的な知識を活用して回答する国家試験問題が適当であると考えます。(日本社会福祉士会)
・国家試験問題において問う、養成課程修了段階で備えておくべき力量のレベルは、総合的問題においてソーシャルワークの実践モデルやアプローチ等の知識を有していると判断できるレベルとすることが適当であると考えます。(日本社会福祉士会)
このような意見を踏まえつつ、提言では次のようなことが触れられています。
2.国家試験の基本的性格、出題内容等について
社会福祉士国家試験は、社会福祉士が様々な分野に就労する可能性があることから、いかなる分野に就労したとしても、ソーシャルワーク専門職として必要不可欠な基本的な知識及び技能が備わっていることを確認・評価するものであることを踏まえた上で、問題作成を行うことが望ましい。
【出題内容、出題形式について】
○ 福祉系大学等において履修した基本的な知識を問う問題が適切に出題されるよう、出題内容を十分に検討することが望ましい。
○ 新たな福祉ニーズに対応できる実践能力が備わっていることを確認・評価できるよう、タクソノミー分類を踏まえた問題作成を行い、理解力・解釈力・判断力を問うことができる事例問題による出題を充実させることが望ましい。
○ 五肢択一または五肢択二を原則とする出題形式は、今後も継続すること。なお、国家試験として妥当性を確保するために必要な場合には、出題形式の見直しを検討することが望ましい。
○ ソーシャルワーク専門職として必要となる基本的な問題や重要な問題については、出題内容や選択肢の見直しを適切に行い、繰り返し出題する仕組みを導入することが望ましい。
このような背景から、新カリキュラムではその意向が反映されているように感じます。特に提言の中で「社会福祉士の資格取得を目指してきた新卒の受験者の合格率が、他の資格試験と比較して低すぎるのではないか。 出題内容と履修内容にミスマッチがあるのであれば、その解消が必要である。 」という意見もあり、そのような意見も新カリキュラムに移行してからの方向性に変化を及ぼしているのかもしれません。
とはいえ、合格基準が「総得点の60%程度を基準」としつつも、現実がそうならない現状は、やはり試験問題自体の難度はそこまで変わっていないのではないかと思います。その中で基準を下げて合格率を上げる方向に舵を切っているのは、これまで社会福祉主事が「福祉に携わる人の基本の中の基本」という位置づけを社会福祉士に変えていこうとする部分が見え隠れするようにも感じます。また社会福祉士が「特別な資格」ではなく、福祉分野に関わっていく上での「基礎的資格」として位置付けていくための方向転換のようにも感じます。
社会福祉士が制定された当初、いわゆる「福祉六法」時代でした。
また社会福祉基礎構造改革から福祉分野へ民間参加が促されていた時期でもあり、サービスの質の確保も求めらており、そこにソーシャルワークの専門家を配置することも念頭に置かれていました。
しかし現在、福祉が対象とする支援は多様化・多角化しています。
社会福祉士が制定した当初とは社会の状況は大きく変化し、社会福祉士が業務とする範囲やその対象、取り組みも多様化しています。カリキュラムの変遷もまさに時代を反映しているものであり、私が受験した時は「刑事司法と福祉」という科目は存在していませんでした。もっと言えば、法が制定された時より分野・内容がより細分化されており、社会福祉士であっても刑事司法のことも知っておきなさい、ということの現れなのだと思います。
そんな中で、他分野で活躍できる社会福祉士を生み出そうとしているのが、現在の社会福祉士の合格率増になっているのかもしれません。ただし、もう1つ大事な視点は「質の確保」で、それをいかに担保していくのかも同時に考えるべき視点です。先ほどの日本社会福祉士会の提言の1つ「力量のレベル」について、このように提言しています。
国家試験問題において問う、養成課程修了段階で備えておくべき力量のレベルは、総合的問題においてソーシャルワークの実践モデルやアプローチ等の知識を有していると判断できるレベルとすることが適当であると考えます。また、それらの知識を活用する、より高度な判断及び実践力等は、資格取得後の教育(認定社会福祉士制度等)において継続的に習得に取り組むものとし、国家試験問題で問うレベルと資格取得後の教育に求めるレベルを区別することが必要です。
日本社会福祉士会の提言ですが、社会福祉士会の加入率は低いです。
社会福祉士会の研修制度も、現場職員としては受けにくいような形と感じており、認定社会福祉士制度を基盤とする考え方は正直疑問に感じる部分もあります。
とはいえ、社会福祉士がキャリアを形成できる仕組みは必要です。
社会福祉士は「名称独占」の資格で、受験や資格を得るための要件として社会福祉士を求められることがあっても、社会福祉士でなければ携わってはいけない・携われないというものはありません。しかしながら社会福祉士を持つことがその人にとってのインセンティブになる仕組みは必要であり、それは国レベルで構築できるものではないかと思います。診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬なんかは、国レベルで十分に対応できるものであり、そこの仕組み作りも考える必要があると思います。
ただ・・・自分を含め、かなり前に試験を受けた人は思うところもありますよね。
あんなに大変な思いをして勉強したのに、今は試験の4割程度正解できれば合格できると感じてしまうと、資格の価値って・・・って考えますよね。でもここは考え方を変えて、「難しくて、説明しにくい資格」から「福祉分野に関わる人は普通に持つ資格」とするのが、これからの社会福祉士の在り方にあるのかな、とも感じています。


