全盲の生徒さんが蹴り飛ばされる事件が起き、話題になっています。

そして今日になって事態が変化した様子ですが、また難しい問題が存在しています。


報道によって様々なので、現時点での判断は難しいです。

「作業員の男」と報道しているところがあれば、「障害者支援施設に入所する男性」との報道、はっきりと「知的障害」と報道していたり、あるいは「社会復帰に向けて」と書いたものあり、その表現によって捉え方はかなり変わってきます。自分の推測では、障害者支援施設(施設入所支援)に入所している知的障害の男性と考えています。もしかしたら、そこに行動障害もあるかもしれませんし、精神疾患を併せ持っているかもしれません。ただ、今出ている情報だけでは判断のしようがありません。


とはいえ、障害があるから罪から免れることはありません。

仮に「心神喪失」と判断されるのであれば、この事案は医療観察法の事案であると思います。(そう思うのは、現に自分が医療観察法の事案を持っているから余計に感じるのかもしれません。)


医療観察法、正式には「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」といい、「心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度」(厚生労働省ホームページから引用)であります。この法律の大きなポイントは「殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害」を「犯罪」ではなく「重大な他害行為」と位置付けている点です。今回の案件は「重大な他害行為(傷害)」に当たるものと考えられ、不起訴になった場合は医療観察法に乗るものと思います。


ところが、医療観察法の対象となっても、その処遇が行われるかは、また微妙。

厚生労働省のホームページに医療観察法に関する情報が掲載されているのですが、医療観察法で入院対象となった障害・疾患のうち、「精神遅滞(知的障害)」の人数は747名中、10名(平成26年3月末日現在)。全体に占める割合は僅か1%にとどまっています。ちなみに最も多いのは統合失調症で、619名。その割合は約82%。数字だけ見ると、統合失調症を対象にしているようにも見えます。


この数字からわかることは、知的障害者が医療観察法の対象になる可能性は少ないこと。

不起訴、あるいは刑事裁判で無罪などになり、検察官が医療観察法の申し立てを行っても、不処遇(医療観察法によらないもの)となる可能性が極めて高いと言えます。では不処遇になった場合、どうなるのか・・・いわゆる「福祉の対応」となるわけです。「福祉の対応」ということは、結局何もせずに障害者支援施設に戻ることになります。あるいは精神保健福祉法による入院治療・通院治療を行う可能性もあります。


この状態を社会は果たして許すのか。

かなり先走ったことを書いていますが、恐らくここまで踏み込んで報道することはないと思います。結局、社会には感情論だけ残って終わってしまうことが、また怖いところであります。福祉に携わる人間としても、この状態を「何もしない」で終わることは、許されないと思います。その一方で、入所施設も難しい問題を抱えることになります。何もせずに戻ってきた彼に、どのような支援をすればいいのかがわからないまま戻っては、また同じようなことの繰り返しにもなりかねません。施設としても苦しい問題であり、その対応を一施設だけに押し付けてしまうのも、違うと思います。


今から2年前の7月に、ある事件の判決が言い渡されました。

発達障害(アスペルガー障害)を持つ男性が実姉を刺殺した事件で、検察官の求刑を超える判決が言い渡されました。その判決の中で裁判官が「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない」「被告人に対しては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」という判決が波紋を呼びました。その後この判決は破棄され減刑されましたが、もしかしたらこういった犯罪の中には、医療観察法によるものがあるかもしれません。しかし・・・発達障害者が医療観察法による入院対象となったのは、わずか9人。先ほどの知的障害の例と同じ程度の割合であります。


改めて思うのは、「障害」に対する「法律」の対応が不十分であること。

たしかに医療観察法ができたことで、治療につなげて社会復帰に導く流れはできました。しかしすべての人にそれが当てはまるのではなく、今回のようなケースでは何もできずに終わってしまう可能性もあります。そして福祉の現場では、支援力の問題もあります。すべての施設が強い支援力を持っているわけではなく、施設によって特性があります。発達障害の人の支援に長けている施設もあれば、触法障害者の社会復帰に力を入れている施設もあります。でも多くの施設は、親御さんが高齢化などにより支援できなくなり、入所に至るケースが多いと思います。そういった現状の中で、重大な他害行為を行った人に対して、福祉の力だけでサポートをするのは非常に大変であると思います。個人的には、これは医療観察法に付す案件であると思います。そのうえで、どのような支援をしていけばいいのかを、医療チームだけでなく社会復帰後の福祉チームと共に考えていくことが重要ではないのかと思います。


まだまだ未熟なソーシャルワーカーの意見であります。