チベットの豚
後輩が夫婦でやってきた。会うのは3年ぶりか。胴回りが一段と太く、ずんどうでぶよぶよで、見苦しいったらありゃしない。太ももは嫁のウエストほどある。まるで豚じゃねーか。
20年前、一緒にヒマラヤへ登山に行ったときのこと。麓の村のいたるところで餌をあさる豚を見て驚いた。その後輩と同じ顔をしているではないか。それ以来、俺はそいつを「ブー」と呼んでいる。「ブー、飯つくれ」「こら、ブー、しばくどー」といった調子だ。
そのころは、どうしてもだれよりも先に自分の足で踏みしめたい、惚れこんでしまった未踏峰というものがあって、そんな山に熱くなっていた。いまから思うと、気恥ずかしい感もあるが、そんなことに情熱を傾けられたということは幸せだったような気もする。
昨夜はブー夫婦とうまいソバをげっぷが出るほど食った。勘違いした注文をして、胃袋が受けつける以上のソバを食う羽目になったということだ。
今日はカーちゃん、デイサービスで風呂に入れてもらう日。その時間を利用して、ブーたちと戸隠に行って、忍者からくり屋敷で遊んだ。斜めに傾いた部屋があって、その部屋に入ると、足首が脱臼したようにバランスを失い、いままで意識せずにいた引力の不思議を感じさせてくれる。からくり屋敷は、子どもばかりか大人もけっこう楽しめる。
ああ、戸隠まで行ってソバを食わずに帰る。遅めの昼飯は、冷やしうどんをつくった。――どうだ、ブー、ひでこ、なかなかうまかっただろう。ひでこがせっかく刻んだ大葉を入れ忘れたが。
夕方、二人は京都へ帰っていった。俺は、いま、ほろ酔い程度にできあがっている。晩飯は軽く、ブーが買ってきてくれたおやき二つにしておこう。
20年前、一緒にヒマラヤへ登山に行ったときのこと。麓の村のいたるところで餌をあさる豚を見て驚いた。その後輩と同じ顔をしているではないか。それ以来、俺はそいつを「ブー」と呼んでいる。「ブー、飯つくれ」「こら、ブー、しばくどー」といった調子だ。
そのころは、どうしてもだれよりも先に自分の足で踏みしめたい、惚れこんでしまった未踏峰というものがあって、そんな山に熱くなっていた。いまから思うと、気恥ずかしい感もあるが、そんなことに情熱を傾けられたということは幸せだったような気もする。
昨夜はブー夫婦とうまいソバをげっぷが出るほど食った。勘違いした注文をして、胃袋が受けつける以上のソバを食う羽目になったということだ。
今日はカーちゃん、デイサービスで風呂に入れてもらう日。その時間を利用して、ブーたちと戸隠に行って、忍者からくり屋敷で遊んだ。斜めに傾いた部屋があって、その部屋に入ると、足首が脱臼したようにバランスを失い、いままで意識せずにいた引力の不思議を感じさせてくれる。からくり屋敷は、子どもばかりか大人もけっこう楽しめる。
ああ、戸隠まで行ってソバを食わずに帰る。遅めの昼飯は、冷やしうどんをつくった。――どうだ、ブー、ひでこ、なかなかうまかっただろう。ひでこがせっかく刻んだ大葉を入れ忘れたが。
夕方、二人は京都へ帰っていった。俺は、いま、ほろ酔い程度にできあがっている。晩飯は軽く、ブーが買ってきてくれたおやき二つにしておこう。