PSO2キャラ紹介&物語

PSO2キャラ紹介&物語

正一家紹介
そしてその物語
※携帯で投稿する場合もあり、その時は短くなるかもしれません

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レリアに斬りかかる正。

冷静さを欠いており、分史世界の正といえど、冷静さがない剣はいともたやすく止められてしまう。

 

「鬱陶しい小娘だ!私には及ばない!」

「ちっ!」

 

一旦距離を取る。

しかしすぐに相手は次の手を打ってくる。

 

「消えろ!」

「しまっ…!」

「させないよ!」

 

すとーぶがラビュリスでレリアの攻撃を断ち切る。

その隙にマルが斬りかかっていく。

 

「いくぞ!」

「邪魔だぁっ!」

 

レリアはマルの剣もたやすく受け止める。

が、ただでは受け止められない。

 

「無駄だぜ」

「何を…!」

 

レリアが気付いた時には既に遅い。

彼女の背後にはガードルがいた。

 

「力及ばねぇのはお前だったな」

「仲間毎撃つ気か!だから人間は!!」

「馬鹿が」

 

銃声と共に撃ち抜かれる。

それは彼女にとりついた因子のみ。

マルにはかすりもしない。

 

「仲間を撃つ程雑じゃねぇよ」

「わた…しは…」

「…!すとーぶさん!」

 

レリアが手を前方に出し、すとーぶと正を狙う。

彼女の指先から放たれたのは閃光。

それは相手を射抜くような一撃。

 

「無駄だよ」

 

ラビュリスの力を持って、それは遮断される。

 

「…これで、この世界は終わり」

「お前…何を言っている?」

「君ともお別れだよ、正」

 

導師の世界は、因子の破壊と共に消え去っていく。

 

 

数刻後、4人の身を案じていたきゃっこ達に迎えられ、彼女達は戻ってきた。

ただ一つ、イレギュラーを抱えて。

 

「…これはどういう事?」

 

きゃっことモーガン、すとーぶとガードルと、その後ろにマル。

そしてガードルの隣には、分史世界の正の姿があった。

 

「分史世界は消えた、因子も破壊した。 なのになんで彼女が…?」

 

きゃっこが不思議めいた表情をしている。

現状に対し理解が追いついていないのだろう。

そこにガードルが伏せていた右目を開いて言う。

 

「すとーぶがラビュリスの力を使った、こいつの目の前でな」

「ラビュリスの…はぁ、全く…」

 

モーガンが大きくため息をつく。

 

「お前は理解できたみたいだな、きゃっこはどうだ」

「…いまいち」

「だったら簡単に説明するか」

 

ガードルが組んでいた足を広げる。

 

「すとーぶが使ったラビュリスの力は空間を一時的に断つ力。その力が働いている時に因子が破壊され、分史世界は破壊された。が、空間が断たれてる部分は正史世界に運ばれたわけだ。そこに落ちてた石ころと同じようにな…、だからこいつもこっちに来たわけだ」

「またあんたのせいか」

「ごめんて」

 

険しい表情ですとーぶをにらみつけるきゃっこ。

 

「じゃあもう一つわからない事があるの」

 

きゃっこが別の話を切り出す。

 

「私達の正はどこにいったの?」

 

一瞬、沈黙が続いた。

 

「あの世界に…取り残されたとか…」

「それはねぇな、あの分史世界は俺達が転移させられた世界だ。最初侵入した世界は別の世界のはずだぜ」

「あぁ、現に座標が全く違ったからな」

 

マルの予想は簡単に外れた。

ならば残された可能性を探るのみ。

 

「可能性は3つ。転移前の分史世界に残っているか、また別の分史世界にいるか…」

 

最後の一つは一呼吸置いてからの発言となった。

 

「死んだか、だ」

「……」

 

一同は沈黙した。

十分あり得る可能性で、一番高い可能性だからだ。

 

「転移前の世界に残っている可能性はないと思うよ」

 

すとーぶが一つの可能性を否定した。

 

「あの世界での因子はマル。そのマルはガードルが撃ち抜いて因子を破壊した…あの世界はもう存在しない」

「じゃあ…!」

 

マルが食い気味に言い寄る。

 

「可能性が3つある事は否定しないよ、別の分史世界にいるか死んだか…私達の知らない全く別の空間にいるか」

「根拠はなんだ」

 

全く別の空間と言ったすとーぶに食いつくガードル。

 

「分史世界の反応が探知されていない事、既に存在していて探知できていない可能性は否定できないけどね」

「それはしかたないでしょ」

 

きゃっこが少ししょぼくれる。

 

「ガードルの言う根拠といった根拠はないけど…これ」

 

ラビュリスを取り出すすとーぶ。

 

「…所有者は正のままなのか」

「そう、正がここにいなくてもラビュリスは機能停止していない。模倣品のこれらは所有者が契約解除、または死ぬと機能が停止する」

「なるほど、生きてるって言いてぇのか」

「生きてるよ、あの時と一緒でね」

「そうか」

 

一同の沈黙。

それを破ったのは分史世界の正だった。

 

「難しい事はよくわからないが、要はここは私の知る世界ではないのだな」

「う、うん違うよ」

 

モーガンが話しかける。

 

「お前の世界と同じ物があるだろうし、同じ人がいるだろうが、全くの別人だ。現にこの世界にも正はいるが、お前と風格が全然違うしな」

「それは会ってみたいな、興味がある」

「何をされるかわかったものじゃないが」

「会ってからのお楽しみというやつだろう、構わないよ」

 

正が立ち上がる。

 

「この世界を見てみたい。私が築き上げた世界とどう違うのか、この世界の私は何をしてきたのかを知りたい」

「…好きにしろ、お前がどう思うか、どう感じるかは俺達は一切責任は負わないがな」

「あぁ、構わないとも。ガードル、案内を頼めないか」

「…仕方ねぇな、マル、執務はお前とティアマトにしばらく任せる。用が終わればすぐ戻るからそれまで頼む」

「わかった、それじゃ俺はこれで」

 

マルは先に退室した。

全員、今の現状を理解し、落ち着きを見せている。

正に執着が強いマルとガードルもまた、何が成長したのか事を解決する術を探りながら、現状を見極めている。

 

自分以外の誰かが築き上げたこの世界は、彼女の目にはどう映るのか。

 

 

元導師の世界で ~知らぬ正史

いつものスパイクヘアーは下ろされ、いつもの眼鏡はなく、口調も全然違う。

彼らの目の前に現れたのは、いつもと違う容姿だが、まぎれもない彼女。

 

「ま…正?」

 

すとーぶが第一に尋ねる。

すると目の前に現れた彼女はすとーぶを見つめた。

 

「正は私だ。君は…キャストのようだが」

(全然喋り方違う)

 

一目で正だとはわかったが、口調が違うだけで混乱している。

 

「す…すとーぶです」

「すとーぶか、キャストの君が居ながら先程の事態が起こるとは考えにくいが」

「…疲れてんだよ」

 

会話に入ったのはガードル。

正と名乗る彼女を見つめて言う。

 

「そいつ、元々キャストっぽくねぇからな」

「…?子供か?」

「っ」

 

正の一言でガードルがキレかける。

マルはその様子を見て慌てて止めに入った。

 

「えっと…!こいつ、俺の兄貴で、これでも成人してて…アークスやってます…俺達も」

「そうか、それは失礼した…だが」

 

正と名乗る女はマルに赤いフォトンのソードを突きつける。

 

「アークスであるならば…私が知らぬはずはない」

「ど…どういう事?」

「元、ではあるが私は導師。全てのアークスを知っている、お前達の情報はないぞ」

(うちの導師お嬢様と大違い…!)

 

すとーぶは秘めた思いを吐き出さずにいる。

そして三人は彼女の言葉で理解した。

目の前の正は分史世界の正であると。

 

「えっと…私達、しばらくアークスから籍外してて…多分まだ外れてるだけだと思うんだ…」

「そう、だからちゃんとアークス…です」

 

マルが自信なさげに言う。

喋り方が違うだけで相手は正。

むしろ男まさりな口調でまた別の圧力がある。

 

「疑うのも無理はねぇが…検査でもしてみればすぐわかるぜ」

「いや、その必要はない」

 

正がソードをしまう。

 

「フォトンの感じでわかる。君達がアークスなのは、な」

「なら今のはなんだ?」

「カマをかけた、というやつだ。知り合いに教わった」

 

正が歩き始める。

 

「来るといい、知り合いがいる」

「…アテがねぇ、行こうぜ」

「うん」

「あぁ」

 

彼らは正の後を着いていく。

 

 

「戻ったぞ、レリア」

 

ガードル達が辿り着いた先には小屋があった。

そこにはレリアと言われる少女がいた。

 

「この匂い…誰?」

「そこで知り合った、何か問題が?」

「おい、そいつ…」

 

レリアからはファクターのオーラ出ている。

 

「匂いが変わったら私が動けないって言ってるでしょ!」

「だからお前はここで待機させている」

「そいつらが敵だったらどうするのよ!」

「それはない、それよりレリア、お前のそれはなんだ」

 

正はレリアのファクターオーラに気付いていた。

 

「何…?何よ!」

 

マルが正の手を握る。

 

「せん…正さん!外へ!」

「な、なんだ!?」

「そいつは危険です!」

 

4人は小屋の外へ出ていく。

外へ出ると、小屋が燃え出した。

レリアが中で何かしているのだろう。

 

「おい!レリアのあれはなんだ!」

「あれはファクター!世界を歪める歯車だよ!」

 

すとーぶが武器を構える。

 

「遂げよ造斧!ラビュリス!」

 

ガードルとマルも武器を構える。

目の前の標的を倒す為に。

 

「お前も構えたほうがいいぜ、戦うならな…叫べ、煌舞アウロラ」

「応えよ造刀、創世」

 

彼らの武器を見て正は驚愕する。

模倣とはいえ、彼らが持つのは創世器なのだから。

 

「お前達、それは…!」

 

正の言葉と同時に小屋からファクターが露わになったレリアが出てくる。

 

「正ぁ!お前は…お前もウニョリーと同じかぁ!!」

「この世界のウニョリーの話か…?」

「その発言…」

 

正が赤いフォトンのソードを取り出す。

 

「ウニョリーを殺ったのは…お前か」

「気づくのが遅いなお前は!導師はいつもそう!いつも遅い!!」

 

レリアが頭を抱え、折れたカタナを片手に暴走する。

 

「私の使命すら棒に振ったお前を…導師を許すわけにはいかないのよぉ!」

 

ソードを持つ正の手から血が滲む。

余程の怒りで、余程の握力で握っているのだろう。

 

「貴様に…使命を語る資格はない!!」

 

正はファクターと化したレリアに斬りかかる。

かつての友を弔う、かつての友の敵を取る為に。

 

 

導師の世界 ~分史の正しさ

4人が見たのは異常な光景。

血で塗られたような大地と赤く濁った空。

まるでダーカーにでも汚染されたかのようだった。

自分達の知る場所は全て破壊され、血で染まり、悲惨な状況。

一人の鬼が道を踏み違えただけでここまで変わってしまうものなのかと驚愕もした。

 

「現場にもいない、俺達全員の心当たりは全て当たった…目的は見つからないか」

 

ガードルが腕を組んでため息をつく。

現状、もうアテがないのだ。

 

「マル、他に心当たりはないの?」

 

すとーぶが髪をいじりながらマルに問いかける。

 

「…あるとすれば」

 

マルが何か思い出したのか。

 

「……ハルコタンかしら」

「…はい」

 

正が目を座らせて言う。

彼女も、そしてマル自身も心当たりがあるのはそこだった。

 

「書物がハルコタンで見つかったと言ってたわね、行ってみましょうか」

「でもキャンプシップ以前にロビーまでボロボロだよ、他の惑星に行く方法がないじゃない」

「キャンプシップは正史世界から持ってくることはできないが…そうだな」

 

ガードルが何か閃いたようだ。

 

「ガードル、何か方法があるのかしら」

「ロビーはぶっ壊されてるが、全く使えないわけじゃあない。システムをいじってみれば何かできるだろ」

「確証は?」

「ない、つってもここでこうしてても俺らは帰る事ができねぇ。やるしかないぜ」

「そうね、行きましょうか」

 

彼らはロビーへと向かう。

 

 

ガードルがロビーのシステムをいじる。

中々の手際でシステム状況を探っていく。

それは過去には見たことのない彼の技術力。

 

「中々ね、ガードル」

「あー、黄王の座についてからはあーいう仕事してることが多いから…」

「マル、あなたは?」

「俺はこれはからっきしで…」

「情けない…」

 

正が頭を抱える。

学生時代から細かい作業が苦手なところは変わらないようだ。

 

「できたぜ、一台起動できるのがあった。行くぞ」

「じゃあ、いこっか」

 

彼らはキャンプシップへ乗り込み、惑星ハルコタンへ向かう。

 

 

「何これ…!何この数値……!」

 

正史世界、転送エリアできゃっこがモニターを見て困惑している。

 

「深度550…なんでこの深度が近づいてくるの…!?」

 

手を動かすが、どうにもならない。

 

「皆の侵入した世界の深度は145…ありえないってば…!」

 

 

赤に染まった惑星ハルコタン。

奥に潜むのは道を違えた鬼の子。

 

「見つけたぜ」

「あ…?」

 

顔の左側が黒く、目は赤黒く濁っている。

 

「ガードル…?なんで…?」

「正気では…あるみたいだな」

「油断するなよ、ガードル」

「誰に言ってやがる」

 

ガードルの隣に立つマルを見て、分史世界のマルは驚き、そして…発狂する。

 

「なんだそいつは…?なんで…なんだそいつは!!」

「お前が知る術はねぇよ」

 

ガードルが武器を構える。

リアトルを構えるでもなく、彼が構えるのはツインマシンガン。

 

「叫べ煌舞、アウロラ」

 

彼の手に現れたのは白く煌めく模倣創世器、アウロラ。

 

「情を出すつもりもねぇ、すぐに終わらせる」

「いい考えね」

 

正の手にはパルチザンが握られていた。

 

「私も気分はよくないのよ」

「だろうな…マル、いくぜ」

「あぁ、行こう」

 

マルの手に現れるのは創世。

 

「応えよ造刀…創世」

 

小さな宇宙の鞘から刀身が姿を現す。

 

「この過去を…断ち切る!」

「なんなんだ…なんだお前はぁぁっ!」

 

道を踏みしめた鬼と、踏み違えた鬼の衝突。

敵の刃は脆い。

仲間を失い、友も、兄弟も失い、何もかもを失った刃と、正反対にそれら全てを持っていて、守るべきものもある刃では結果はわかりきっている。

 

「がっ…!なんで…なんでっ!!」

「わかりきってるだろ」

 

道を違えた鬼に銃口を向けるガードル。

 

「お前は…何ももってねぇからだ」

「…っ!俺は…俺は!」

 

ファクターが露わになる。

 

「全てを失って!!全てを手に入れるんだっ!!じゃないと…じゃないと!」

「ガードル離れろ!」

「ちっ!」

 

ファクターのマルの折れたカタナが黒いオーラを纏う。

 

「全てを捨てた意味がねぇんだよっ!!!」

「くそっ!」

 

マルが創世で受け止める。

が、創世の力とファクターの膨大な力がぶつかり、空間が歪む。

 

「まずい!創世は空間に干渉する創世器だ!マル離れろ!!」

 

ガードルがマルに叫ぶ。

しかしマルは手を緩める事すらできない。

手を緩めれば相手の力で自分達は死ぬ、その確証があったからだ。

 

「無理だ!今俺が離れるわけにはいかない!」

「すとーぶ!転移を!ラビュリスの!」

 

正がすとーぶに指示を出す。

 

「駄目だ!詠唱間に合わないよ!」

「仮にも模倣だものね…!私が時間を稼ぐわ!急いで!」

「もう…!」

 

正がパルチザンを手放す。

 

「包め!無杖ライノルト!」

 

正が二人のマルのカタナの間にライノルトを突き刺す。

 

「空間を包め!」

「先輩そんなことしたらっ!」

「背に腹は代えられないわ!そのまま下がりなさい!」

「っ…!」

 

三人の奮闘の中、すとーぶの詠唱が終わる。

 

「光り舞え!セイントスニーク!」

「くそがっ!」

 

ガードルがアウロラでファクターを撃ち抜く。

 

「ファクターは破壊した!退くぞ!」

「駄目だ先輩が!」

「自分の心配しなさい!馬鹿ね!」

 

すとーぶの詠唱で4人は転移する。

しかしそれと同じタイミングで、その分史世界は破壊された。

彼らの行きつく先は、正史世界ではない。

 

「どこに飛ぶか…わからないよ!」

「正!」

 

ガードルが叫んだ先に、すでに正の姿はなかった。

 

 

「きゃっこ!」

 

正史世界、転送エリアに入ってきたのはウニョリーとモーガンだった。

 

「正達はどうなった!」

「落ち着けウニョリー」

「…今、4人が侵入した分史世界は破壊されたわ。ファクターの破壊には成功したのよ」

「じゃあ!」

 

しかし、転送エリアの転送装置は起動していない。

 

「でも…!戻ってこないのよ!」

「なんだと…?」

 

モーガンがモニターに駆け寄り、画面を見る。

 

「分史世界を破壊したらすぐにでもこっちに戻ってくるはず…なのになんで来ないの…?」

「…おいきゃっこ、この世界はなんだ」

 

モーガンが示したのはきゃっこが先程接近に気付いた深度550の世界。

 

「まさか…!」

 

きゃっこが機材を操作する。

その結果、この問題の答えが見えてきた。

 

「正達は…この分史世界に侵入した…?」

「いや…」

 

きゃっこの推理をウニョリーが遮る。

 

「飛ばされた、飛んじまったってのが正解かもしれないな」

「…かもね」

 

 

ガードルが目を覚ますと、そこは見覚えのある大地。

惑星ナベリウスだった。

 

「ん…うっ…ここは…」

 

彼の横にはマルと、足元にはすとーぶが倒れていた。

ガードルはすぐにマルへと駆け寄った。

 

「っ!マル!おいマル起きろ!」

 

彼の声で、マルはすぐに目を覚ました。

 

「いっ…ガードル?俺達助かって…」

「馬鹿がっ!」

 

倒れているマルは、今ガードルより目線が低い。

立ち上がったガードルと、座り込んだマルでも、やはりガードルのほうが目線が高い。

そのまま、彼は自分の弟の頭を抱きしめた。

 

「あんな無茶は許してねぇ」

「…あぁ」

「許可してねぇ」

「あぁ」

「次やったらぶん殴る」

「泣きっ面に蜂だなぁ…もうしないよ」

「…馬鹿が」

「ごめんな、ありがとう」

 

一度離れ、今度はすとーぶを起こす。

 

「おきろ、すとーぶ」

「すとーぶさん」

「ん~…」

 

すとーぶがすんなり起き上がる。

 

「ここ…ナベリウス?」

「みたいだな」

「分史世界の、ですけどね」

「私らまだ帰れないのか…あれ」

 

すとーぶが周囲を見渡す。

いるべき、いるはずの人が一人見当たらない。

 

「…正は?」

「…いねぇ」

「空間を包んだから…もしかしたらあの時…」

 

マルが一部始終を思い出す。

 

「死んではいねぇ、無事だろうが…どこに飛ばされたかはわからねぇな」

「そっか…この分史世界に来てるのかな」

「わりぃ、俺がファクターを破壊するタイミングが悪すぎたせいだ。判断が甘かった」

 

ガードルが下を向いて謝罪する。

後悔もあるのだろう。

2年前と、似ているこの状況に恐怖もあるだろう。

 

「仕方ないよ、あのタイミングしかなかったんだ。むしろよく破壊してくれたって感じ」

 

すとーぶがガードルの頭をぽんぽんと優しく叩く。

 

「…正は絶対生きてる、それは間違いないよ」

「……子供扱いすんなっつっても聞かねぇか」

「よくわかってるねぇ」

「とりあえず、ここのファクター探さないと」

 

マルが話を切り出す。

 

「アテはないけど…とりあえず動きましょう」

「だね、二人共怪我は?」

「ねぇな」

「ないです」

「よし」

 

3人は少し歩く。

帰る為の術を探して。

すると原生種に囲まれ、武器を取ることになる。

 

「…囲まれたか」

「油断したなぁ…疲れてるのもあるけどさ」

「この程度の数ならどうにかなりそうだけど…ガードル、俺が先に出てもいいか?」

「あぁ、任せ…!?」

 

ガードルがマルの方を見ると、背後からウーダンが飛び出してきていた。

 

「マルっ!」

「ぼさっとするな!」

「!?」

 

急に加勢がきた。

聞き覚えのある声だが、聞き覚えのない喋り方だ。

現れたのは女性。

少し長めの下ろした髪。

エメラルド色の目。

短いスカートにでかい胸。

髪型以外は見覚えがあった。

むしろ本人だと思った、すとーぶが。

彼女はエネミーの大群を一人で全滅させた。

手際は上出来、自分達の知る彼女のように。

 

「この辺りのエネミーは、隙を見せれば瞬時に攻撃してくる。話している程余裕はないぞ」

 

彼女は片手で軽々しく扱っていた大剣を納めた。

 

「お前達はここで何をしている」

「なっ…?」

「お前…!」

 

マルとガードルは驚きを隠せなかった。

眼鏡はないし髪型は違えど、彼女は紛れもない正だったのだから。

 

 

分史と愚鬼 ~分かたれた英雄

「失礼いたします」

 

王の謁見の間に現れたのはウニョリー一家の一人、エンプティーだった。

黄王ガードルに直々に依頼があるのだそうだ。

 

「連絡は受けている、用件を述べよ」

「はっ、情報部より新たな分史世界が発見されたと情報が入りました。つきましては黄王と、その側近に当たる鬼に出撃を依頼したく…」

 

話を聞いた王はついていた肘を取り、玉座から立ち上がる。

 

「聞き入れた、すぐに出撃しよう。出撃先を述べよ」

「有り難く。場所は情報部、転送エリアとなります。そこに転送者がおります」

「心得た。下がってよい」

「はっ」

 

王の言葉を受け、エンプティーは謁見の間から立ち去る。

 

(……なんか…緊張しましたね…)

 

昔のガードルとは違う、今の雰囲気に圧倒されたようだ。

その後、謁見の間ではガードルが支度を始める。

 

「マル」

「ここに」

 

ガードルの呼び出しを受け、すぐさま駆けつける鬼の子、マル。

 

「すぐに向かう、準備をしろ」

「直ちに」

 

二人は出撃の為の準備を済ませる。

 

「ティアマト」

「はっ」

「留守を任せる」

「かしこまりました」

 

ティアマトに留守を任せ、二人は特命部を出る。

 

 

「ガードルとマルの出撃許可が出たわ」

「二人共来るんだね、助かるよ」

 

情報部転送エリアに居るのは正とすとーぶだった。

 

「久しぶりの面子ね」

「正なんか出撃して大丈夫なの?昇格目の前みたいだけど」

「導者が導師になるだけでしょ、別にどうでもいいわよ」

「名前変わるだけだっけ」

「そうね、やることは今と大して変わらないわ。前線に出る機会が余計に減るだけ」

「でも出てくるんでしょ?」

「私は自由よ」

 

二人の話に割って入るように、彼女はツッコミをいれる。

 

「自由すぎなのよ」

 

きゃっこだ。

 

「正は自分の存在の重大さを理解してなさすぎ」

「前線に出ない理由にはならないわよ」

「正の代わりいないんだけど」

「それ誰にでも言えるわよね」

「…導師ともなれば話は別」

「知らないわよ腕が鈍る」

「そればっか…」

「まぁまぁ、正は無事に戻るって決まってるじゃない」

「すとーぶ二年前のあれもう忘れたの?」

「戻ってきたからいいじゃん」

「敵だったでしょうが」

 

埒があかない。

三人で話し込んでいるとガードルとマルが到着する。

 

「うるせぇな、外まで聞こえそうだぜ」

「あら、来たわね」

 

戦闘服の正装、と言えばわかりやすいだろうか。

そんな恰好できた。

 

「マルも来たね、よかった」

「依頼ですから、ちゃんと来ますよ」

「さっすが、白の騎士団長」

「茶化さないでくださいよ」

 

すとーぶはマルとも、ガードルとも久々に会う。

少々浮かれているのだろう。

マルはガードルの側近として配属され、王であるガードルを支え、アークスを、市民を支えるべく騎士団の団長となった。

そして今彼は、白の騎士団団長らしく、白騎士の格好をしている。

 

「それで、今回の分史世界は?」

 

ガードルがきゃっこに問う。

 

「今回は結構深度が深くて…二年前のマルが上層部の奴に騙されてウニョリーを殺そうとした事件覚えてる?」

「…俺はとてもよく覚えてる」

 

マルは少し苦そうな顔を浮かべた。

 

「俺もよく覚えてる」

 

ガードルは平然としている。

二人だけではなく、正も、きゃっこもすとーぶもよく覚えている。

 

「その時系列で…マルがウニョリーの殺害に成功した世界なんだ」

「…まぁ粗方予想はしてたわ」

「それだけじゃないよ」

「まだ何かあるのかしら」

 

正が興味深々である。

 

「そのまま…私達も全滅した世界なんだ」

「それは…っ」

「……ほんとに全て滅ぼせたってわけね」

「だからきっと…昔のリベアやギルシュがファクターだった世界よりもずっと危険だと思う」

「でしょうね」

 

正がテレポーターの前に立つ。

 

「それでも行かなければいけない。私達のこの世界で同じ事はさせないわ」

 

彼女に迷いはない。

しかしすとーぶが意図せず発言する。

 

「でも過去に起きたことならそのまま放置しておいても私達に影響ないんじゃない?」

「馬鹿ね、あるわよ」

 

正がすとーぶの疑問を一蹴する。

 

「分史世界を放置しておけば私達のこの正史世界にも影響が出る。それが過去だったとしても、影響が出れば私達の過去が塗り替えられてそのまま今の私達に影響が出るの…。つまり、これから行く分史世界では私達は皆死んでる。その過去がこっちに影響されれば…私達は死ぬのよ」

 

正がつらつらと解説する。

頭いいキャラみたいだ。

 

「正…私のセリフを…!」

「言うのが遅いのよきゃっこは」

「つまり…マルも一人になるってことか」

 

ガードルの眉間にシワが更に寄る。

マルが一人になる、その事実が余程気に食わないのだろう。

 

「さっさと片付けるぜ、いくぞお前ら」

「生意気ね、いいわよ」

「事情がわかっちゃった以上は…仕方ないね」

「行くか…俺の…有り得た世界に」

 

きゃっこがテレポーターを起動させる。

 

「…気を付けて」

 

その先は、鬼の子が全てを捨てた世界。

 

 

分史世界に辿り着いた四人。

 

「なんか雰囲気は二年前そのものだね」

「でもこの感じ…」

「…マルの鬼のフォトンだ、レマと幻依する前のやつにそっくりだぜ」

「溢れすぎじゃない?充満してるよこれ」

 

すとーぶが空に手をかざす。

異様に重く、息苦しいフォトン濃度。

通常のフォトンならまだしも、鬼の特有のフォトンで、しかもどす黒く重いフォトンとなっている。

 

「重たいわね…空気」

「私キャストだからわからない」

「濃度がやばいことくらいわかるでしょ」

「それくらいなら…」

「俺は鬼の血あるから…あんまり」

「俺はかなり厳しいけどな…」

 

ガードルの顔色が悪くなっていく。

この濃度だ、当たり前だろう。

 

「仕方ないわね…ヴァル」

『かしこまりました』

 

正と、武器の状態のヴァルスが詠唱を始める。

 

「命源脅犯!」

『「スピリッツリバース!」』

 

発動した瞬間、次第に四人の周囲の空気は一変する。

重苦しい空気、フォトンは散り、清浄な空気となる。

 

「へっ…助かるぜ」

「こうするってわかってたくせに、生意気ね」

 

ガードルは正がこうする事を予期していた。

 

「さて…ファクター捜索といこうぜ」

 

調子を取り戻すガードル。

 

「ファクターは…多分俺か」

「気負うなよ」

「わかってるよ兄さん」

「ったく…まずはお前が正達と対峙したとこにいくぞ」

「いいわね、妥当だわ」

「注意しようね、空気が悪いことに変わりはないから」

 

彼らはこの絶望に満ちた世界を進む。

罪に溺れた、愚かな鬼を探して。

 

 

抹殺の世界 ~瘴気となるフォトン

「あー、よっわ」

 

エネミーを複数体撃破し、ため息をつく女性が一人。

赤い眼鏡に短いスカート、エメラルド色の瞳。

正だ。

 

「ほんとにこの辺なのかしら」

「幻想種が出てるからここで合ってるはずだぞ」

 

正と共に任務に出ているのはウニョリーだった。

久々の一緒の出撃、それなりに気分が高揚していた正だったが、あまりにエネミーの弱さに嫌気がさしていた。

そんな風にだるそうにしていると、幻想種の増援が現れる。

 

「数ばかり多いわね」

「殲滅するぞ、念の為だ」

「……めんどくさいわね…」

「お前な…」

 

正のきまぐれさは知っているつもりだが、流石のウニョリーも少し呆れる。

 

「ヴァル」

『承知』

 

正が呼ぶとすぐさま姿を現すヴァルス。

 

「いいかしら」

「いざ!」

 

正の合図と共に二人の詠唱が始まる。

 

「風刃研ぎ合い」

「流転に舞え!」

 

複数の風の刃がエネミーを襲う。

 

「「エアスラスト!」」

 

瞬時にエネミー達は引き裂かれ、消滅する。

 

「よっわいわねぇ」

「お見事です」

「相変わらず凄まじいなぁ」

 

武器をしまい、場所を移動する正達。

 

「場所を変えるわよ、ここじゃ無理」

「はいよ」

「では」

 

ヴァルスは武器へと戻り、正のもとへ戻る。

すると、急な地震が始まった。

 

「…出た」

「こいつか…でかいな」

 

現れたのはエスカ・ラグナス。

正達の目的はこいつだった。

 

「最近増えすぎよね、仕事の邪魔」

「こいつを倒すのも俺達の仕事だろ?」

「そうだけれど…」

 

話をしていて、敵が待ってくれるわけもなく。

エスカ・ラグナスの攻撃は正達を襲う。

 

「危ないわね」

「おっと…」

 

正とウニョリーは難なく攻撃を避ける。

二人にとっては止まって見える攻撃だ。

 

『風が効果抜群のようです』

「エスカ・ダーカーだもの、思った通りよ」

「どうする?」

「引きつけてちょうだい、隙をつくわ」

「了解だ」

 

ウニョリーがツインマシンガンを手に、エスカ・ラグナスへと向かっていく。

瞬間、エスカ・ラグナスの雷撃がウニョリーを襲う。

 

「遅い!」

 

当然ウニョリーが被弾するわけもない。

エスカ・ラグナスの背後で、正がヴァルスと幻依をしている。

 

「いくわ」

『参ります』

 

正は天高く飛び上がる。

 

『風神招来!』

 

正の頭上に大きく黄色い円が浮かび上がる。

 

『「我が翼は碧天!天を覆うは処断の翠刃!」』

 

円から降り注ぐ無数の短剣。

それは翼のような形を成している。

 

『「シルフィスティア!!」』

 

無数の刃は風となり、敵を一閃する。

エスカ・ラグナスは細切れにされ、消滅した。

 

「やれやれ…俺の引き立て役も板についたなぁ…」

 

少し離れたところで、ウニョリーは正の背中を見ていた。

 

「…ちょっと寂しい」

 

そんなぼそっとした声は、誰にも拾われなかった。

 

 

アークスシップに戻ると、正達に通信が入った。

 

「げっ」

「…きゃっこね」

『応答しないとはいい度胸ねあんた達』

「強制的に開いてるじゃない…」

 

めんどうになるのがわかっている為、正は通信には応じないつもりだったようだ。

 

『無視されることは想定済みよ』

「なんの用かしら」

『なんの用じゃないわよ!今回の任務はウニョリー単独のはずでしょうが!』

「……」

 

ウニョリーはだんまりをかましている。

 

「別にいいじゃない」

『よくないわよ!あんた自分が導者だってわかってんの!?』

「暇だったんだもの」

『理由にならない!』

「たまには前線に出ないと腕が鈍るわ」

『それ昨日も言ってたでしょうが!』

「昨日は13回言ったわ」

『わかっててやってんじゃないわよ!』

「今日はまだ7回目よ」

『回数の問題じゃないってのぉぉぉぉお!!』

 

通信越しで何とも賑やかな会話である。

 

『ウニョリーもっ!なんで一緒に行ってんのよ!』

「二人の方が早いと思って…」

『あんた一人で十分でしょうがぁぁぁっ!!』

 

きゃっこのストレスはマッハ。

 

「仕事終わりの一杯は格別なのよ」

『前線に出るのはあんたの仕事じゃないって言ってんでしょ!』

「ちなみにウニョリーの奢り」

『それは知ってる』

「待て聞いてない」

 

目の前の本人に無断である。

 

「すとーぶの店よ」

『私もう上がるから合流するわ』

「財布はいらないわよ」

『でしょうね、それじゃまたあとで』

「待ってるわ」

「待って何で俺抜きで話が進んでるんだ?」

「行くわよウニョリー」

 

無慈悲。

 

(やだ…正もきゃっこもザルなんだよ……酒代足りるか…)

「倉庫からいくらか下ろしてきてね」

「…解せない」

「ほーら行くわよ」

「正って昔より強引になってないか?」

「何を今更。奢られることに躊躇はないわ」

「かっこよく言わないでくれ…」

 

ウニョリーの貯金は今日も劇的に減っていく。

これが彼らの平凡な日常。

 

いつまでも、この当たり前が続きますように。

 

 

当たり前 ~いつもの二人のまま