レリアに斬りかかる正。
冷静さを欠いており、分史世界の正といえど、冷静さがない剣はいともたやすく止められてしまう。
「鬱陶しい小娘だ!私には及ばない!」
「ちっ!」
一旦距離を取る。
しかしすぐに相手は次の手を打ってくる。
「消えろ!」
「しまっ…!」
「させないよ!」
すとーぶがラビュリスでレリアの攻撃を断ち切る。
その隙にマルが斬りかかっていく。
「いくぞ!」
「邪魔だぁっ!」
レリアはマルの剣もたやすく受け止める。
が、ただでは受け止められない。
「無駄だぜ」
「何を…!」
レリアが気付いた時には既に遅い。
彼女の背後にはガードルがいた。
「力及ばねぇのはお前だったな」
「仲間毎撃つ気か!だから人間は!!」
「馬鹿が」
銃声と共に撃ち抜かれる。
それは彼女にとりついた因子のみ。
マルにはかすりもしない。
「仲間を撃つ程雑じゃねぇよ」
「わた…しは…」
「…!すとーぶさん!」
レリアが手を前方に出し、すとーぶと正を狙う。
彼女の指先から放たれたのは閃光。
それは相手を射抜くような一撃。
「無駄だよ」
ラビュリスの力を持って、それは遮断される。
「…これで、この世界は終わり」
「お前…何を言っている?」
「君ともお別れだよ、正」
導師の世界は、因子の破壊と共に消え去っていく。
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数刻後、4人の身を案じていたきゃっこ達に迎えられ、彼女達は戻ってきた。
ただ一つ、イレギュラーを抱えて。
「…これはどういう事?」
きゃっことモーガン、すとーぶとガードルと、その後ろにマル。
そしてガードルの隣には、分史世界の正の姿があった。
「分史世界は消えた、因子も破壊した。 なのになんで彼女が…?」
きゃっこが不思議めいた表情をしている。
現状に対し理解が追いついていないのだろう。
そこにガードルが伏せていた右目を開いて言う。
「すとーぶがラビュリスの力を使った、こいつの目の前でな」
「ラビュリスの…はぁ、全く…」
モーガンが大きくため息をつく。
「お前は理解できたみたいだな、きゃっこはどうだ」
「…いまいち」
「だったら簡単に説明するか」
ガードルが組んでいた足を広げる。
「すとーぶが使ったラビュリスの力は空間を一時的に断つ力。その力が働いている時に因子が破壊され、分史世界は破壊された。が、空間が断たれてる部分は正史世界に運ばれたわけだ。そこに落ちてた石ころと同じようにな…、だからこいつもこっちに来たわけだ」
「またあんたのせいか」
「ごめんて」
険しい表情ですとーぶをにらみつけるきゃっこ。
「じゃあもう一つわからない事があるの」
きゃっこが別の話を切り出す。
「私達の正はどこにいったの?」
一瞬、沈黙が続いた。
「あの世界に…取り残されたとか…」
「それはねぇな、あの分史世界は俺達が転移させられた世界だ。最初侵入した世界は別の世界のはずだぜ」
「あぁ、現に座標が全く違ったからな」
マルの予想は簡単に外れた。
ならば残された可能性を探るのみ。
「可能性は3つ。転移前の分史世界に残っているか、また別の分史世界にいるか…」
最後の一つは一呼吸置いてからの発言となった。
「死んだか、だ」
「……」
一同は沈黙した。
十分あり得る可能性で、一番高い可能性だからだ。
「転移前の世界に残っている可能性はないと思うよ」
すとーぶが一つの可能性を否定した。
「あの世界での因子はマル。そのマルはガードルが撃ち抜いて因子を破壊した…あの世界はもう存在しない」
「じゃあ…!」
マルが食い気味に言い寄る。
「可能性が3つある事は否定しないよ、別の分史世界にいるか死んだか…私達の知らない全く別の空間にいるか」
「根拠はなんだ」
全く別の空間と言ったすとーぶに食いつくガードル。
「分史世界の反応が探知されていない事、既に存在していて探知できていない可能性は否定できないけどね」
「それはしかたないでしょ」
きゃっこが少ししょぼくれる。
「ガードルの言う根拠といった根拠はないけど…これ」
ラビュリスを取り出すすとーぶ。
「…所有者は正のままなのか」
「そう、正がここにいなくてもラビュリスは機能停止していない。模倣品のこれらは所有者が契約解除、または死ぬと機能が停止する」
「なるほど、生きてるって言いてぇのか」
「生きてるよ、あの時と一緒でね」
「そうか」
一同の沈黙。
それを破ったのは分史世界の正だった。
「難しい事はよくわからないが、要はここは私の知る世界ではないのだな」
「う、うん違うよ」
モーガンが話しかける。
「お前の世界と同じ物があるだろうし、同じ人がいるだろうが、全くの別人だ。現にこの世界にも正はいるが、お前と風格が全然違うしな」
「それは会ってみたいな、興味がある」
「何をされるかわかったものじゃないが」
「会ってからのお楽しみというやつだろう、構わないよ」
正が立ち上がる。
「この世界を見てみたい。私が築き上げた世界とどう違うのか、この世界の私は何をしてきたのかを知りたい」
「…好きにしろ、お前がどう思うか、どう感じるかは俺達は一切責任は負わないがな」
「あぁ、構わないとも。ガードル、案内を頼めないか」
「…仕方ねぇな、マル、執務はお前とティアマトにしばらく任せる。用が終わればすぐ戻るからそれまで頼む」
「わかった、それじゃ俺はこれで」
マルは先に退室した。
全員、今の現状を理解し、落ち着きを見せている。
正に執着が強いマルとガードルもまた、何が成長したのか事を解決する術を探りながら、現状を見極めている。
自分以外の誰かが築き上げたこの世界は、彼女の目にはどう映るのか。
元導師の世界で ~知らぬ正史