また一雨くる、そんな前の出来事。
王の寝室から一人、外を見る者がいた。
「休憩か」
そんな彼に声をかけたのは他ならぬ王。
彼はその声に反応し、振り向く。
「部屋の掃除を」
「にしては手が動いてねぇな、なんかあったか」
「…王には隠し事はできませんね」
「いいよ、今は誰もいないぜ」
彼は王のその一言で肩の力が抜けた。
いつもの、優しい彼の笑顔が見える。
「……最近忙しかったからな、ガードルともまともに話せてないと思って」
「それで部屋の掃除か」
「だって、玉座の間とかだと人がいるだろ?」
「当たり前だ、公の場だしな」
「ここならそんなこともないかなって」
そういうとマルはふにゃっと笑っていた。
「まぁ…ここに入れるのは俺とお前だけだしな」
「それの理由も聞きたいんだけど?」
マルがガードルのベッドに座る。
「俺ら一つ屋根の下で暮らしてきたようなもんだろ」
「だな」
「部屋一緒だったろ」
「うん」
「ついでにベッドも」
「場所がないしなぁ」
「俺らだけの空間っての、欲しかったんだよ」
ガードルからその言葉を聞いて、マルはぽかんと口を開いていた。
「あ、あんだよ」
「お前からそんな言葉が出るとは思わなくて…」
「はぁ!?なんでだよ!」
「てっきりそういうことには関心ないと思って…」
「だからなんでだよ!あるわ!仮にも兄弟だろうが!大事にしてぇだろ!!」
珍しく、仕事中には一切見せないガードルの焦りっぷりが見れる。
マルはそれだけでも嬉しいのだ。
張りつめた期間が長く、2年前から今にかけて、多くの事がありすぎた。
その間、こんな幼く見えるガードルはとてもとても久しぶりなのだ。
「そんなに声荒げてるの、久しぶりに見たな」
マルはハハハッと笑う。
こんなに落ち着いて、賑やかな会話をするのは久々なのだ。
「落ち着いた雰囲気になったと思ってたのに、ははっ」
「い、色々あったからな…周りが見えるようになった時にはお前は暴走してるしよ」
「あれは…なんかごめん」
「ナベリウスの殺人鬼だかやってるしよ」
「んなこと言ったら、ガードルだってヴァーミリオンとかいう組織いたじゃん?」
「俺はいんだよヴァーミリオンは壊滅したし」
「リアトルなんて先輩に喧嘩ふっかけようとしたみたいだし」
「あいつほんと馬鹿だな」
「自分の相棒だろ」
下らない話を、過去の辛いはずであろう話をたれ流していく。
今だからできる話だろう。
「馬鹿なのは否めねぇ」
「んで結局二人して戻ってきたわけだ」
「お前もレマと一緒に戻ってきたじゃねぇか」
「俺はお前達がいなかったら戻ってこれなかったよ」
「正なんてお前の事殺そうとしてたけどな」
「まぁ…いざとなればってことだろ?懸命だって」
「俺はお前が生きててよかったと思ってるけど」
ガードルもベッドに座る。
ちょうどマルと背中合わせになるように。
「俺もお前と一緒になれてよかったって思うよ」
「これ、覚えてっか」
ガードルが首に下げているペンダントを見せる。
「当たり前、っていうか記憶に新しい」
「遊園地の時の帰りのやつ」
「兄弟揃って同じやつ気に入ったんだよな」
「んでお揃い」
「ははっ、…どんなに忙しくても、離れても、繋がってるって証拠」
「お前が何か形ある物欲しいって言ったんだぜ」
「ガードルも嫌とは言わなかった」
「嬉しかったからな」
「素直じゃないな、俺の兄さんは」
「言ってろ、それが俺だってわかってんじゃねぇか」
「そりゃもちろん」
二人はペンダントをベッドの枕元に置く。
「今晩、久々に一杯やるか」
「ガードルお酒駄目じゃなかったっけ」
「ビールは無理だな」
「じゃあ…水?」
「んなわけねぇだろ。……カクテルなら」
「んじゃあ、御作りしますよ、我が王様」
「ちゃかすな、バーカ」
「俺は焼酎でも飲むかなー」
「明日休みにしてやるよ」
「何言ってるんだよ、お前が出るなら俺はいつでも出る」
「じゃあ俺の傍にいればそれでいい、たまには休め」
「ガードルも」
ああ言えばこう言う、こうなっては自分が折れるしかないとガードルはわかっている。
「…んじゃあ、ティアマトにある程度任せるとすっかな」
「9割任せて少し楽しろよ、じゃないと俺も普段通りやる」
「ちっ、わぁったよ。糞生意気な弟だこった」
「兄さんが素直じゃないからな」
「減らず口、ったく」
二人は結局朝まで飲み、仕事の大半はティアマトに任せたという。
たまにはよきかな、優雅な一時。
ただ一時 ~心許せる者