凡例
私:『鶴岡まき
お姫:『姫路ももか
津山さん:『津山涼子
黒坂さん:『黒坂なぎさ
"彼女":『市川めぐみ


もうひとつの旅行班 第2夜『私に勇気をください』

 それからの"彼女"はお姫に加えて、黒坂さんとも出かけるようになりました。相変わらず"彼女"はお姫に行き先を教えず、お姫もむしろ楽しんでいるようでした。

 一方の私にできたことは、あの日の次の日。授業のノートをコピーして、ほとんど受けられなかった黒坂さんに渡したことだけ…。それでも黒坂さんは涙を見せつつ、お礼を言いたかったでしょう。

 不思議なことにそれ以降、あのグループから私へのいじめはなくなりました。それからの私は安堵と共に、ただ淡々と日々を過ごすだけ…。

 "彼女"とお姫に津山さん、友達が出来たことを喜んでいる黒坂さんと。結局接することもないまま、私たちは高校を卒業。大学生活がどうなろうと、別々ならそれまで。

 でもこんな私でさえ、見捨てられることを許してもらえません。手を差し伸べてくれたのは…、お姫でした。

 素直に喜べない私に対して、お姫は"彼女"たちに対しての不満をぶつけるような接し方。そして黒坂さんと"彼女"は、大学でもう1人友達が出来ていました。

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 少し後、お姫は私のもとへ2人連れてきます。黒坂さんと"彼女"が大学で出来た友達の、高校時代の友達2人。背の高い優等生タイプな『岸田あいか』さんと、小さいけどヤンキーっぽい『白木ひろみ』さん。

 岸田さんと白木さんは、私と好意的に接してくれました。それこそあのとき。黒坂さんにとっての、"彼女"と津山さんみたいに…。そしてお姫は"彼女"に対抗すべく、旅行グループの結成を決めました。ようやく私にも、居場所を与えられたのです。

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 それからの私。これまでにないほど充実した日々といいましょうか、出かけると決まれば楽しみで仕方ありません。何より4人でいることが楽しかったのです。

 不安が全くないわけではありません。もしかしたら岸田さんと白木さんも…、裏切らないかと。そんなある日に岸田さんが、白木さんの昔話を聞かせてくれました。

 白木さんは学校…。とりわけ勉強系に馴染めず、テストで点数が取れません。非力で、取り得は足の速さぐらいらしく。荒れていました。岸田さんが白木さんと出会ったのは、それからのことです。

 いつしか不良仲間に交じっていた白木さんですが、やはり非力で何も出来ません。岸田さんはそんな様子を案じて、気にかけます。そんなうち、白木さんが本来持つ優しさに触れたのです。やがて白木さんも、岸田さんに居場所めいたものを覚えました。

 そんなときでした。不良仲間たちや他のグループが何者かに次々と襲われて、白木さんもターゲットになるところ…。しかし白木さんは襲われず、何者かに守られたのです。この時点で切り捨てられていたのかもしれません。

 何もかも落ちこぼれ。そんな白木さんを、岸田さんは全て受け入れました。対して私はどうなのでしょう?"彼女"も黒坂さんも…、裏切ったようなものです。そして…、今からでも遅くないと。岸田さんと白木さん、それにお姫。私の大きな味方になりました。

 でも私はまだ"彼女"と顔を合わせられません。もしかしたらと思うと、…怖いのです。"彼女"たちが7人で出かけたとき、私は加わっていません。切符の都合はあったのでしたけど、早々に諦めたのは私のほうでした。

 このままでよくないことはわかります。確かに4人なら楽しく過ごせましたし、自分にも大きな自信が生まれてきました。それでも"彼女"の、特に旅行系でない話だけは素直に聞き入られないのです。

 白木さんが聞いてきました。
ひろみ「あのさ…。何でめぐさんのこと、まだ避けてるんだ?」

 曲がりなりにも、私が"彼女"をいじめたのは事実に違いありません。それなのに"彼女"は変わっていないようで、それ以上に黒坂さんを…。私にできないことばかりして。

 実質あのグループの言いなりだったとはいえ、どうしてあんな"彼女"をいじめてしまったのか。後悔で済めばまだよかったのですが、コンプレックスが積み重なったといいましょうか?もう届きません。

ひろみ「…まだ間に合うんじゃないのか?」

 そうです。今ならまだ、"彼女"とやり直せそうです。あと1歩…、あとほんの1歩さえあれば。どうか私に勇気をください。

 それからというもの、なかなかタイミングなど合わせられず。進展もないまま日々過ぎていきました。"彼女"のことを考えなければ、私は楽しく過ごせています。でも、やはりやり直せたらと…。

 "彼女"が旅行モノをやめるかもしれない。そんな話は突然かもしれませんが、必然だったのでしょう。時間は残されていませんでした。でも、私はどうすれば…?

ひろみ「会ってやれよ。」

 そうは言われても…。"彼女"もでしょうけど、連絡先がありません。お姫は"彼女"を優先しますし、岸田さんと白木さんは一応"彼女"の連絡先があるのでしょうけど。

ひろみ「教えてやろうか?」
まき「あ…、いや…。」

 一瞬ながらも、受け付けることができません。このままでは終わってしまいます。

ひろみ「なんで会ってやれないんだよ!前まで普通に話せたんだろ!?」

 私に怒った白木さんを見て、1つ思い出されてきました。あの時涙を見せてから、一気に弱弱しくなっていた黒坂さんと。それに怒ったお姫です。ぶつけるだけ気持ちをぶつけながら、お姫は泣いていました。そして今、白木さんも泣いて…。

ひろみ「なんで…、なんでだよ…?」

 お姫は"彼女"を優先しつつ、何も考えなかったわけではありません。"彼女"の卒業旅行に合わせて、作戦というか計画といいますか…。3人で同時に出かけます。

あいか「京都でいい?」
(つづく)