三島由紀夫の「美しい星」(昭和37年 新潮社)がまさか映画化されるとは思ってもいませんでした。
自分たちが宇宙人であることを主張する主人公並びにその息子と娘に対して、原作はあくまでも彼らの妄想であるという印象を持ちました。
ところが、映画版では、もしかしたら彼らは本当の宇宙人なのではという思わせぶりが勝っているように感じました。
三島由紀夫がなぜSF?と思ってしまいますが、氏は円盤観測の会にも参加するほど、空飛ぶ円盤について非常に関心を持っていたそうです。
なにはともあれ文豪の小説をここまで大胆に脚色するとはと驚かせられました。
この映画を鑑賞した人が、三島由紀夫に興味を持ち他の作品も読んでみたくなるのではと勝手に思ってみたりしました。
主人公の大杉重一郎(リリー・フランキー)は火星人、息子の一雄(亀梨和也)は水星人、そして娘の暁子(橋本愛)は金星人であると信じ切っています。妻の伊余子(中嶋朋子)だけは地球人という設定(原作では木星人)です。
伊余子を地球人としたことが、重一郎の奇怪な行動をより際出たせるという効果もあったかも知れませんね。
また、重一郎の職業を気象予報士でお天気キャスターとしたのも、その言動が多くの視聴者に瞬時に伝わってしまうという影響力の大きさが作品に面白みを加えています。
それぞれが自らが宇宙人であると覚醒するタイミングは・・・・・
重一郎:愛人と車に乗っている最中。
一雄:彼女(?)とプラネタリウムを鑑賞中(この鑑賞の仕方に笑ってしまうのですが)。
暁子:金沢のミュージシャン竹宮薫(若葉竜也)と円盤遭遇中に。
この男、自分を金星人と称していますが正体はとんでも無い奴であることが後に判明。
宇宙人を名乗るのはこれだけではなくて、一雄が私設秘書を務めることとなった参議院議員鷹森(春田純一)の第一秘書の黒木(佐々木蔵之介)です。
彼は陰で鷹森議員を操り危険な野望を抱いています。
演じている佐々木蔵之介も何だか不気味で怖いです。
橋本愛演じる暁子は、竹宮との出会いで妊娠してしまいますが、本人は、処女受胎と言い張ります。
主人公の重一郎は、周囲が止めるのも聞かずにテレビのお天気コーナーで温暖化による地球の危機を独特なパフォーマンスと共に訴え続け、その行動はますますエスカレートしていきます。
一方で、重一郎は重病に侵されていました。
この一世紀ほどで急速に地球の環境を悪化させ、核兵器という危険なものを持った人類への警鐘を作家・三島由紀夫が鳴らしたこの物語は、21世紀の現在でもそこにある危機を人々に訴え続けています。
美しい星 (2017年 日本)
監督・脚本 吉田大八
出演 リリー・フランキー 亀梨和也 橋本愛 中嶋朋子 佐々木蔵之介 羽場祐一 春田純一
友利恵 赤間麻里子 武藤心平 川島潤哉 若葉竜也 坂口辰平 藤原季節 板橋駿也
新潮文庫「美しい星」