演出助手部 文学部2年清水俊介

1、 はじめに
 明治大学シェイクピアプロジェイクト(以下、MSP)の稽古場とはキャストと演出家、演出助手部、楽器隊で構成された芝居の練習をする場である。2024年度の稽古場はキャスト23名、演出家1名、演出助手5名、楽器隊11名の計40名で構成されているが9月時点では楽器隊がキャストと同じ場所で稽古したことはない。そのためこのレポートでは楽器隊は登場しない。しかしながらキャスト、演出家、演出助手で構成された稽古場も十分見ごたえのするものであるからその概要を大学生らしくレポートという形式で述べる。なお本レポートで取り上げるのは9月某日土曜日の稽古場でありその記述は時系列に沿ったものである。
 

2、 タイムスケジュール
9:50準備開始
 MSPの稽古は9時50分から始まる。元来稽古は10時開始であったが稽古時間を可能な限り長くするため稽古準備の時間を集合時間の前に設けるようになったのである。稽古の準備とは教室内の机と椅子を移動させることである。MSPの稽古は明治大学の一般教室で行われるのが大半である。そのため授業に適した構造になっている教室に芝居をすることが可能なひらけた空間を用意する必要がある。教室内には大量の机と椅子が配置されているため稽古参加者全員でそれらを移動させ教室を整えるのである。
 
10:00集合
 出欠確認とその日の諸連絡が行われる。その後1日の流れを確認し稽古が始まる。稽古場の時間厳守は厳しく遅刻率は授業よりもかなり低い。時間に厳しいのは本番や場当たりといったキャスト1人の遅刻がスタッフ全員に迷惑をかけるような日に遅刻をしたりしないよう日頃から心がけるようにしているからである。
 
10:05~10:15エアロビ
MSPの稽古の最初はエアロビクスから始まるのが伝統である。音楽を流し全員で同じ動きをすることで体が温まるだけでなく全員の一体感が育まれる時間である。このとき使用される音楽は長く同じ曲が使われているがその詳細に関しては割愛する。
 
10:20~10:50筋トレ
多様な演技ができるようになるため筋力トレーニングを行う。演技をするうえで体幹は重要である。そのためプランクや腹筋トレーニング、背筋トレーニングといった体幹トレーニングが多めである。筋トレは稽古で1、2を争う嫌いな時間であるためあの手この手ですぐに終わるような工夫が施される。プランク中の山手線ゲームや筋トレ音楽は他にはない面白さを醸し出している。筋トレの時間を仕切るのは「筋トレ隊長」と呼ばれる筋トレ伝道師である。この隊長制度はMSP稽古場の特徴である。筋トレメニューの考案から稽古場での実施まで行う筋トレ隊長は筋トレのプロフェッショナルである。
 
10:55~11:25ストレッチ
 柔軟性も演技をするうえで重要である。柔軟な体は演技の幅を広げ舞台での見栄えを華やかにする。ストレッチには「柔軟隊長」と呼ばれる柔軟伝道師がいる。筋トレ隊長同様その時に稽古場で必要なメニューを考え適切な柔軟を行うのである。MSPの参加者はバレエやダンス経験者が多く体が柔らかいキャストが多い。一方で体が極端に硬いキャストがいるのも事実である。
 
11:20~11:50発声
 役者にとって声は非常に重要である。どの席に座っているお客様にも聞こえる声量と内容が明瞭に聞こえる滑舌がなければ作品は成立しない。MSPの会場はアカデミーコモンホールという大きなハコであるからキャストに求められる技術は非常に高度である。今年で21回目を迎えるMSPが培ってきた発声方法は門外不出の高等技術である。
 
11:50~12:00シアターゲーム
 アップの最後に簡単なレクリエーションを行うことがある。シアターゲームと呼ばれ単なるレクリエーションゲームではない。ひとつひとつに意味があるゲームである。その種類はあまた存在し日々新たなゲームが考案されている。マルチタスクやセリフの言い方、即興など様々な観点に着目したゲームはどれも楽しく稽古場内の集中力が一段と高まる瞬間である。
 
12:00~13:00昼休憩
 MSPの稽古は長く、授業がない日は間に昼食をはさむ。昼食の時間は稽古場内の人間関係が色濃くでる時間でありこの稽古場の人間関係が知りたければ昼食時間を見るべきである。今年度の稽古場はお弁当を持参する人は少なく休憩時間になると三々五々コンビニや飲食店に買いに行く。過半数の人がテイクアウトし稽古場で仲の良い人と談笑しながら食事をとる。

13:00~17:00シーン練
 昼休憩後はついに本編の稽古へと入っていく。MSPの稽古はメインと呼ばれる演出家がいる場所とサブと呼ばれる演出家はいないがキャストが自由に使える部屋の2種類が存在する。メインでは全編をいくつかの幕と場に区切りその区切りシーンごとに稽古を行うのであるがそのシーンに関係のない人はサブで自主練習に励んでいる。メイン、サブともに演出家、キャストを問わず様々な意見が飛び交いその様はまるで皆が演出家のようである。1日あたり4から8シーンの稽古を行うが最近は意見の出し合いが白熱し1つのシーンにかける時間が長くなる傾向にあり一部の人はその日一度もメインに行くことがないというのも忘れてはならない事実である。
 
17:00解散
 MSPの稽古は終了時も時間厳守の風潮が強い。たとえシーン練がどんなに白熱しようとも17時には稽古が終了する。稽古期間も1日あたりの稽古時間も長いがゆえに稽古後の時間は各人にとってとても重要な時間である。なるべくその時間を減らさない配慮がなされているのである。プライベートに配慮した参加者に優しい稽古場であると言えるだろう。教室の机と椅子をもとに戻し解散となる。解散後は速やかに帰る人が多くバイトや観劇、遊びへと個々の生活へと戻っていく。


3、 おわりに
 MSPは21年という歴史が積み重なった団体であるがその内実は毎年カンパニーメンバーが入れ替わるように刻々と変化している。皆が演出家のように意見を自由に出しあえるというのは稽古場の大きな変化であろう。この変化はハラスメント、多様性といった多くの人への配慮がうたわれるこの時代に合わせた変化、もしくは喜劇という困難に挑むがゆえの変化、はたまた全く別の理由によって生じた変化であるかは断定できない。どちらにせよこの雰囲気が明日も引き継がれていくのかは分からない。稽古場が明日の稽古をどのように行うかは稽古場で誰かが言ったほんの一言によって決定されたりする。その内部に居ながら客観的視点で稽古場の雰囲気を観察することは観劇よりも趣あることかもしれない。
 

 
● 追伸
 本レポートは拙い文書、不明確な情報源により構成されている。その旨は深く反省すると共に読者の皆さまに深く謝罪しなければならない。本レポートを参考にされる際は必ず事実であるかをご自身の目で確かめていただきたい。