前回の話

会社の同僚が、立て続けに結婚した。

SNSのタイムラインは、ウェディングドレスと新婚旅行の投稿で埋まっていた。


それを見たとき、ふと、思った。


「私も、そろそろ結婚してみたいな」って。



その言葉を、何の気なしに口にしたのは、

彼と喫茶店で話していた時だった。


「結婚したいとかって、思わないの?」

って彼に聞かれて、


私はただ、そう答えただけだった。

「とりあえず、って……」



彼は少し笑ったあと、

それきり、黙ってしまった。


私はその沈黙の意味を、

あの時ちゃんと理解していなかった。



それでもその日、帰り道はいつもと違っていた。


彼の歩くスピードは、ほんの少しだけ速かったし、

改札で手を振った時も、彼の目は、


いつもの優しさと、どこか少しの寂しさを含んでいた。



「まいちゃんは、前に進むべきだよ」


別れ際、彼はそう言った。


私が「また連絡しますね」と言った時の、

「うん、楽しみにしてる」

という声は、どこか遠くて、優しかった。



数日後、LINEを送っても、既読はすぐに付いたのに、

返事は、来なかった。


何度もスマホを開いて、閉じて、

私はようやく気づいた。


あの時の「とりあえず」って言葉が、

彼にとってどれだけ現実的で、残酷だったのか。


彼が、ちゃんと“引いた”んだって。

私の未来から、自分を外してくれたんだって。



優しかったからこそ、

彼は、最後まで優しいまま、私の前から消えていった。



次回(最終話):

「出会ってしまったことだけは、後悔していない」