前回の話↓



彼と会うのは、久しぶりだった。


これが最後になるかもしれないって、

私はなんとなく感じてた。


だから、メイクも髪も、いつもより少しだけ丁寧にした。



彼はいつも通りだった。

変わらない声で「元気だったか?」と笑ってくれた。


だけど、会ってすぐ分かった。

彼の中で、何かが決まっていたことに。



その日はめずらしく、

人通りの少ないレストランを選んでくれていた。


窓際の席で向かい合って座ると、

私の胸の鼓動がうるさくて、

最初の10分は、何を話したか全然覚えていない。



少しして、彼が言った。


「……ほんとは、手を繋ぎたいくらいなんだけどね」


目を合わせずにそう言った彼に、

私は何も答えられなかった。

ただ、黙って水を飲んだ。



でも帰り道、

横並びになった瞬間、

私は、そっと彼のそでを掴んだ。


彼は立ち止まって、

静かに、私の手を握った。


それは、ほんの数秒だったけれど。

言葉よりも、涙よりも、深い“感情”が流れていたと思う。


そして彼は、そっと手を離して言った。


「ありがとう。まいちゃんと過ごせて、ほんとに幸せだったよ」


私は笑って、「私もです」とだけ言った。

泣いたら、きっと彼は引き返してしまうから。



その日を境に、彼から連絡が来ることはなくなった。

私も、もう送らなかった。


でも、

もしあの夜


ほんの少しでもタイミングが違っていたら――なんて、

今でもたまに考えてしまう。




私は、まだ結婚していない。


彼以外の誰かを、

本当に好きになれたことが、まだ一度もない。


だけど、

出会ってしまったことだけは、

一度も、後悔したことはない。




あの人がいた4年間が、

私の人生の中で、いちばん

“人を好きになった”時間だった。



「今日、あの人と初めて会った日から、

ちょうど5年が経っていた…」



『はじまりの日記』終わりー