その日の朝、私は夫と些細なことで喧嘩をした。
理由は覚えていない。
でも何かが心に引っかかって、職場からまっすぐ家には帰りたくなかった。
スーパーに行けば、尚哉さんがいるかもしれない。そんな期待を抱いてしまう自分がいた。
そして、本当に彼はいた。
「大丈夫ですか?」
声をかけられた瞬間、涙が出そうになった。
「…少しだけ、歩きませんか」
いつもと違う私の様子に気づいたのか、
尚哉さんは何も聞かずに静かに頷いた。
川沿いの道を歩きながら、他愛もない話をした。
「家族のこと、大切に思ってるんです。でも、なんででしょうね」
「わかります」
彼の声は優しくて、私の気持ちを全部見透かしているようだった。
ほんの一瞬、彼の指が私の手に触れた。
でも、すぐに離れた。
その距離が苦しかった。

