「高橋さん、またお会いしましたね」


藤井さんの柔らかな声が応接室に響く。

前回の商談から二週間。

今回は進捗の確認と追加の提案をするために訪問した。


「お忙しいところ、お時間いただきありがとうございます」


営業らしく微笑みながら席につく。

藤井さんは変わらず真面目で、話を丁寧に聞いてくれる。

こちらの提案にも誠実に向き合い、質問を投げかける。


(この人、本当にきちんとしてるな)


それが心地よくて、気づけば仕事の話だけでなく、自然と雑談が混じり始めた。


「そういえば、高橋さんってお昼は外で食べることが多いんですか?」


「そうですね。お客様のところに来る日は、移動中に軽く済ませちゃいます」


「そうなんですね。僕も外出が多い日は近くのカフェでランチすることが多いんですけど…ここの駅前にあるお店、意外と落ち着けていいですよ」


「え、そうなんですか? いつもバタバタしてて、そういうお店知らなくて」


「もし時間あるなら、今度行ってみてください。ランチプレート、結構美味しいですよ」


「…じゃあ、次の商談の前に寄ってみようかな」


そんな風に、自然と「次に会う」ことを前提にした会話が交わされる。

その事実に、少しだけ胸が高鳴った。


(…なんで、こんなに話していて楽しいんだろう)


相手は大切なお客様。

だからこそ、親しみやすい関係を築くのは大事なこと。


そう、割り切るべきなのにーー。


帰り道、スマホのスケジュールを確認しながら、ぼんやりと思った。


(次の訪問の日、楽しみだな…)


その気持ちの正体は、まだはっきりとは分からなかった。