約束のカフェ。
仕事の話を終えたあとも、どちらともなく話を続けていた。
(もう少し、この時間が続けばいいのに)
何気ない会話の中で、藤井さんはふと腕時計に目を落とした。
「そろそろ行かないと…ですね」
「あ…」
分かっていたはずなのに、その言葉に胸がざわめいた。
(このまま帰りたくない)
「藤井さん」
思わず名前を呼ぶ。
彼がゆっくり顔を上げた瞬間ーー
気づいたら、私は手を伸ばしていた。
けれど、触れたのはほんの指先。
彼の手の甲に、そっとかすめるように触れて、すぐに引っ込めた。
(…何してるの、私)
鼓動がうるさい。
けれど、藤井さんは驚いた様子でこちらを見たまま、何も言わない。
(…嫌がられてはいない?)
試すように、もう一度そっと手を伸ばす。
今度は、指先で彼の手に触れたまま、止まった。
「美咲さん…」
低く優しい声に、胸が締めつけられる。
(どうしよう、止められない)
「…もう少し、ダメ、ですか?」
自分でも驚くほど、、
藤井さんは答えない。
けれど、触れた指を振り払うこともしなかった。
その事実が、たまらなく嬉しくて、たまらなく苦しかった。

