佐藤彩さんとの仕事は、
その後も何度か続いた。
彼女はいつも丁寧で、よく気がきく。
忙しい中でも、ふとこちらを気遣うような言葉をかけてくれる。
営業職という立場上、多くの人と接するが、あの自然な笑顔に救われるような感覚を覚えることがあった。
ある日、打ち合わせの後に少し遅めの昼休みを取ることになり、エレベーターの中で彼女がふと口にした。
「近くに美味しいカレー屋さんがあるんですけど、行ってみます?」
誘われたというより、あくまで自然な流れで、断る理由もなかった。
店に着いても話す内容は、
仕事の延長のようなものだったが、彼女の何気ない話しぶりや、笑い方にどこか安心感があった。
妙に気を張らなくていい相手というのは、そうそういない。
「いつも忙しそうですね」と言われて、
「まあ、そうですね」と笑いながら返すと、
「でも、今日の顔、少し柔らかい気がしますよ」と言われた。
それが彼女の本心だったのか、ただの社交辞令だったのかは分からない。
ただ、その言葉が妙に胸に残った。
帰り道、彼女と別れたあとも、
何となく思い出すのは彼女の言葉だった。特別な何かがあるわけじゃない。
だけど、また一緒に時間を過ごせたらいいなと、ふとそう思ってしまった。
そんなことを伝えようとはしていない。
ただ、少しずつ、彼女の存在が日常に入り込んでくるような感覚だけが残っていた。
