「今日、あの人と初めて会った日から、ちょうど5年が経った」


2020年の春。

世界がマスクで覆われて、就活も面接も、すべてが画面越しになっていた頃。


私はと言えば、なんとかESを書いては送るものの、手応えのある返事なんて、なかなか返ってこなかった。


毎日、カフェに通ってはパソコンの画面を見つめ、ため息。

自分が何をやりたいのかも、分からなくなりかけてた。


そんなとき、大学の友達がふと言った。


「うちの親、面接官とかもやってるから、聞いてみたら?」


“親”と聞いて、最初は少し戸惑った。

だって私とその子は同い年。

つまり、その人は私の父親くらいの年齢だったから。


でも、背に腹は代えられない。

お願いして、会ってもらうことになった。



場所は、少し落ち着いた喫茶店。

背筋を伸ばしたスーツ姿の男性が、私を見つけて立ち上がった。


「こんにちは。木嶋です。○○(友人の名前)の父です。」


声も、まなざしも落ち着いていて、

安心できる”という感覚が、久しぶりに心に広がったのを覚えている。


エントリーシートの添削だけじゃなく、

言葉の選び方、話し方、社会人としての視点――

丁寧に、私のことを見てくれていた。



その帰り道、私はスマホにこう書いた。


「今日、すごく不思議な気持ちだった。

あんなふうに誰かに“見てもらった”の、いつ以来だろう。」


思えば私は、母と二人でずっと暮らしてきた。

家に“父親”という存在はいなかったけど、

それを寂しいと思ったことは一度もない。


でもたぶん――

どこかで“ああいう人”に出会いたかったのかもしれない。



あの日が始まりだった。


何かが始まった、というより、

私の中で「何かが動き始めた」――そんな感覚だけが、ずっと残っている。



「5年経っても、私はあの日のことを忘れない。

最初の“好き”は、たぶんもうこの時に始まってた。」



次回:「私はその人に惹かれたまま、社会人になる」↓