前回の話
あの夜から、時間はあっという間に流れた。
悠斗くんが関西へ発つ前の日、
私たちは、ちゃんと向き合って別れた。
ホテルのロビーで、
ぎこちなく向かい合ったまま、
互いに言葉を探していた。
「俺、ミキさんと……一緒にいたいです」
最後の最後に、
悠斗くんは、そんなふうに言った。
本当に不器用で、真っ直ぐで、
どうしようもなく愛しかった。
でも私は、優しく笑って首を振った。
「悠斗くんは、これからじゃない」
「でも――」
「大丈夫だよ」
遮るように言ったあと、
そっと彼の手を握った。
「私、あなたと過ごした時間、
ぜんぶ宝物にするから」
その言葉に、彼は黙ってうなずき、
私の手をぎゅっと握り返してくれた。
それが、私たちの最後だった。
⸻
半年が過ぎた今も、
彼からたまに、短いメッセージが届く。
「元気にしてますか?」
「こっちは、相変わらずです」
開いた画面を眺めながら、
私はそっとスマホを伏せる。
返さない。
返せない。
彼がまだ私を想ってくれていることを、
気づかないふりをするしかなかった。
私はもう、戻れないから。
家庭も、子どもも、
日常も守らなきゃいけないから。
それでも、
心のどこかでは今でも思っている。
あの夜、
あの手、
あの温もり。
本当に好きだった。
――今もまだ、彼を一番、好きなまま。
それを誰にも言わずに、
私は今日も、いつもの日常に戻っていく。
⸻
【今もまだ思い続けて】終わりー
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